2024年12月13日「Art to the Streets 1980年代と現在のキース・ヘリング」(対談)を開催しました!
12月7日に、「キース・へリング展」の関連事業として、対談イベント「Art to the Streets 1980年代と現在のキース・ヘリング」を開催しました。
キース・へリングに直接取材した経験を持つ美術評論家の村田真さんと、中村キース・ヘリング美術館ディレクターのHirakuさんを講師に招き、1980年代から今日におけるキース・ヘリングの芸術性と評価等についてお話しいただきました。
-キース・へリングへの密着取材
キース・へリングは、地下鉄の駅構内の空いている広告板に貼られた黒い紙にチョークで描いた「サブウェイ・ドローイング」で一躍脚光を浴びました。
雑誌『ぴあ』の編集部に所属していた村田さんは、姉妹誌『Calendar』のために1982年の暮れから83年の年明けにかけて、ニューヨークでヘリングを取材されています。取材時の貴重な写真をスクリーンに映しながら、ニューヨークの街並みの印象や、取材時のエピソードをご紹介いただきました。
村田真さん(以下、村田)「危ないから地下鉄には乗るなと言われていたのですが・・・。初日からキース・へリングに密着取材し、地下鉄に乗っていました。スリリングな経験でした。」
Hirakuさん(以下、Hiraku)「日本では、グラフィティは“秩序が乱される”というイメージがありますね。」
村田「グラフィティの暗黙のルールとして、“自分よりうまい人の落書きの上に描いてはいけない”というものがあります。下手な人は描けないので、うまい絵しか残らない。ニューヨークではすごく綺麗な絵ばかりでしたよ。」
Hiraku「90年代には消えてしまったニューヨークの景色ですね。街が整備され、悪い意味でキレイになってしまったと感じます。」
-サブウェイ・ドローイングについて
村田「1枚30秒から3分くらいで、ささっと描いていました。出来上がったら警察に捕まらないよう、すぐにその場を立ち去る。」
Hiraku「描き逃げですね(笑)」
村田「頭の中には何を描くかはあったと思いますが、描き直すところは見たことがありませんでした。」
Hiraku「1980年代のニューヨークは不景気で、広告が売れない時代。広告が入っていない、黒い紙が貼られていたスペースに、へリングが描いたということですね。」
村田「彼が話していたのはギャラリーでの個展は一日に200人とか、せいぜい1000人くらいにしか見てもらえない。けれども地下鉄の駅に描けば、一日1万人とか、多くの人に見てもらえる、と。そのことは強調していました。」
サブウェイ・ドローイングは1985年頃に終了します。転売されて高額で取引されるようになったのもその理由の1つです。オークションで売買されるのは、へリングが望むものではありませんでした。
あらたに多くの人々にアートを見てもらうため、へリングは次に自身がデザインしたグッズを販売する「ポップショップ」を展開するようになります。
村田「彼は色々なことをやっていますが、グラフィティにしても、ワークショップにしても、ポスターなどの印刷物にしても、より多くの人に自分が描いたものを届けたい、楽しんでもらいたいと考えていました。」
Hiraku「まさに、現代で言う“拡散”と同じようなことをやっていたのですね。」
-キース・へリングの評価はどのように変わっていったか?
村田「21世紀以降のアートシーンでは、「市場価値」と「社会的価値」のふたつに分かれてしまったように感じます。へリングと同年代のバスキアは、マーケットで人気が出ました。一方、へリングは、社会的なつながりの中で語られ、評価が高まったアーティストです。」
-社会といかに関わるか、アートの社会的役割を問う
「東京レインボープライド2018」では、へリングの作品がメインビジュアルに起用されました。
また、12月1日の「国際エイズデー」での中村キース・へリング美術館の取組みのほか、現在も大衆の中にあるヘリングの作品をご紹介いただきました。
Hiraku「へリング自身もゲイであり、エイズの診断を受けそれをオープンにして活動していましたが、当時は命の危険にさらされることでもありました。保守的な考えや暴力の危険に面し、自身がシンボルとして立ち作品を残すこと― 今も影響力のある側面だと思います。」
●会場から質問「キース・へリングは、自身の作品を残したかったのでしょうか。それとも、時間が流れるにつれて変化してよいと考えていたのでしょうか」
村田「サブウェイ・ドローイングなどのグラフィティは、やぶれたり、上から塗られたりしてもいいと思っていたはずです。」
Hiraku「一方で、へリングの最後の個展に出品された大作《無題》は、しっかりと構成が練られた作品です。美術史の中で自分の作品を残したいという意思があったと思います。作品を残すことと、変化していくこと…両方の考えがあったのではないでしょうか。」
村田さん、Hirakuさん、進行の中村キース・へリング美術館の八木さん、ありがとうございました!
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「キース・へリング展」では、活動初期のサブウェイ・ドローイングをはじめ、ポスター、レコードジャケット、子どもたちのために制作した作品群など、へリングの活動を振り返る150点を展示しています。へリングの多彩な表現活動を、ぜひ会場でご体感ください。
(c.o)
キース・ヘリング展 アートをストリートへ
2025年1月19日(日)まで開催中
会場内の作品は写真撮影OK! (一部エリアを除く、フラッシュ・動画撮影不可)