2025年04月18日自然を愛した日本画家・小野竹喬
近代を代表する日本画家・小野竹喬(おのちっきょう/1889-1979)。色彩豊かであたたかみのある風景画で知られる竹喬ですが、その作風は生涯を通じて何度も変遷しています。
14歳で竹内栖鳳塾に入門した竹喬は、はじめ四条派の筆法と西洋近代絵画の写実を融合した師・栖鳳風の作品を描きました。続いて1909年に京都市立絵画専門学校別科に進んだ竹喬は、文展での入選や国画創作協会の立ち上げなど活躍する中で、セザンヌの実在性(リアリティー)や南画の自由さを取り入れた表現を探究します。しかし1921年に渡欧し西洋絵画を学ぶうちに東洋画における線描の重要性に気が付き、帰国後は与謝蕪村や池大雅を意識した淡彩の作品を手掛けるようになりました。
太平洋戦争の影が忍び寄る1930年代後半、復古的な風潮の中で竹喬もやまと絵に関心を持つようになります。それまでの南画風の表現からおおらかな線描と色面で立体感を表そうと試み、やまと絵を新たな解釈で表現しました。そしてこの表現は、戦後に至り単純化された造形と明快な色彩という、カラリストと呼ばれた竹喬の代名詞たる瑞々しい風景画へと昇華します。また最晩年に至っても表現の探究はやまず、水墨画風の作品・墨彩画にも挑戦しました。このように竹喬の約75年間の画業で画風は何度も大きく転変しますが、一貫して四季の移ろいや夕暮れ時の茜空など何気なくも美しい風景を描き続けました。
本展は最初期から最晩年に至るまでの竹喬の画業を辿る静岡初の大規模な回顧展です。師・栖鳳の作風を取り入れた《落照》、西洋絵画と南画を融合した《島二作》や《波切村》、池大雅を思慕して描いた《冬日帖》、そしてやまと絵風の表現に至り竹喬の代表作となった《奥の細道句抄絵》の習作など日本の自然の美しさを詩情豊かに表現した竹喬の名品の数々を心ゆくまでお楽しみください。
(s.o)
「笠岡市立竹喬美術館名品展 うつりゆく自然を描く 小野竹喬の世界」
2025年5月25日(日)まで開催中