2025年05月30日創造をめぐる星座

スイス生まれのパウル・クレーは、日本で人気の高い画家のひとりです。
これまで国内でも数多くの展覧会が開催され、谷川俊太郎による詩画集『クレーの絵本』(講談社、1995年)で馴染のある方も多いでしょう。しかしその一方、クレーという画家がどのような画家であるかを一言で説明できないという難しさもあります。

画家自身が作成した作品の総目録によると、クレーが生涯で残した作品は約9,000点に及びます。
緻密な線描画からスタートし、前衛芸術家たちとの交流や第一次世界大戦のなかで抽象性を高め、バウハウスでの色彩とフォルムの追求を経て、晩年はナチズムによる弾圧や自らを襲った病と対峙しながら記号的な作品へ向かったように、クレーの画風は同時代の美術潮流からの影響や、彼を取り巻く社会的、個人的な状況により多様に変化しました。
本展はそのようなクレーの創造の軌跡を、スイスのパウル・クレー・センターや国内の美術館から集めた約60点のクレー作品により辿ります。そこに同時代の芸術家たちの作品を加え、クレーが20世紀においてどのような立ち位置にいたのかを捉え直す機会となっています。

クレーの作品の前に立つと、色彩の重なりやそのマチエールの複雑さを目で追い、描き込まれた文字や矢印、不可思議な形が何を意味するのかと思考を巡らせることでしょう。そこに付けられた詩的な画題もまた私たちの想像を広げていくのですが、一筋縄ではいかないこの“わからなさ”もクレーの魅力のひとつです。
作品と真正面から向き合うという、美術鑑賞の基本に立ち戻ることができるのも本展の醍醐味ですが、展覧会のなかに散りばめられた様々な視点をヒントに、点と点がつながり星座を描くように、クレーという画家の輪郭が浮かび上がってくれば幸いです。

 

(a.i)

 

「パウル・クレー展 創造をめぐる星座
会期:2025年6月7日(土)〜8月3日(日)
◎お得な前売券は6月6日(金)まで静岡市美術館、プレイガイド等で販売