2025年08月10日柚木沙弥郎と静岡

1945年8月、22歳の柚木沙弥郎は静岡県牧之原の大井海軍航空隊基地で終戦を迎えました。東京の家は焼失していたので、父の生家のある岡山県浅口郡玉島(現在の倉敷市)へ復員し、倉敷の大原美術館に就職しました。そこで柳宗悦らが提唱した民藝の思想を知るとともに、美術館の売店で芹沢銈介の型染カレンダーと出会いました。後に柚木はこの時の経験を「数字と模様がからみあって何とも美しく、私の心に灯火(ともしび)をともした。ほかに着るものもなくまだ軍服を着ていた時代、そのカレンダーはまぶしく輝いていた。(※)」と述べています。
(※)「芹沢芸術の賜物 手仕事の教え」『別冊太陽 日本のこころ185 染色の挑戦 芹沢銈介』

1947年、柚木は大原美術館を退職して芹沢の弟子となり、その紹介により清水市江尻鍛治町(現在の静岡市清水区江尻東)の染色工場と由比の正雪紺屋に住み込みで働きました。仕事と生活が一体となった職人の充実した暮らしを体験し、ものづくりの出発点となったのがこれら静岡での修業でした。その後柚木は、日本民藝館展や国画会、芹沢門下の萠木会、全国の民藝店や画廊での個展などを通じて、自由でのびやかな形と豊かな色彩の染色作品を世に送り出しました。1980年代からは、染色のみならず版画や立体、絵本など分野の垣根を越えて表現を広げ、2000年代からはカフェやホテル内のアートワーク、 企業との協働による製品づくりなど、活動の幅はさらに広がりました。

2020年、柚木はインテリア・ショップ・イデー(IDÉE)で個展を開きます。この時の案内状のデザインは、かつて由比でスケッチした印半纏の意匠をヒントに考案されました。70年以上を経てもなお、静岡での経験は柚木の創作に息づいていたのです。

 

(k.y)

 

静岡市美術館開館15周年記念展
「柚木沙弥郎 永遠のいま」

会期:2025年8月16日(土)〜10月13日(月・祝)
◎お得な前売券は8月15日(金)まで静岡市美術館、プレイガイド等で販売