2011年06月08日学芸員のつぶやき どうしてこんなにコパー作品に惹かれるのか①
ハンス・コパー展も残すところ3週間を切りました。(6/26まで)
昨年より、日本各地を巡回した日本で初めての回顧展も、ここ静岡会場が最後です。
今回は、名残を惜しんで、コパー作品へのオマージュを、一ファンのつぶやきとして。
コパーの作品を見ていると、多くの人と同様、そのシンプルながらも不思議な形に強く惹かれます。
コパーの形は、轆轤(ろくろ)を挽いて作った、いくつかのパーツを組み合わせて作られています。
この技法は、「合接(ごうせつ)」と呼ばれ、古くはクレタ島の陶器や日本の須恵器などにも見られるものですが、
現代ではこの技法を使って制作している作家はきわめて稀とのこと。
例えば、今回のポスターやチラシの作品は、円盤状のお皿を2枚合わせ、縦にして、
下部に別の円筒形のパーツをつなぎ、上部にもう一つ、鉢を扁平につぶしたような形をつないで作られています。
ろくろは、「中空の容器」つまり「器」を作る技術であり、その意味で陶芸に本質的な技術です。
(お皿も平たいけれど、”中空”と言えば”中空の容器”です。)
コパーは、生涯、その「器」を作る技術を使って作品を制作しました。
「異質なフォルムの唐突な結合が、瑞々しい美しさを作りだしている」と評されるその形は、
「彫刻的」であり、「建築的」ですらありますが、コパー自身は、生涯、自分は彫刻家ではなく
陶芸家だと、「器(pots)」を作っているのだと考えていたといいます。
(コパーは、若い頃、ルーシー・リーのもとで陶芸に出会う以前には、彫刻家になりたいと考えてもいたのですが・・)
実際、コパーの作品は、どんなに独創的な形のものも、ポットや花器など実用性を備えています。
今回展示している作品の中にも、個人の所蔵者からお借りしたもので、中に花びらが残っているものがあり、
花器として使われていた跡の残るものもありました。
以上は、今回の展覧会カタログに掲載された、兵庫県立陶芸美術館の乾由明館長のテキストによっています。
乾館長は、テキストの中で、コパーは、”「器」でありながら、「器らしさ」の概念の限界を拡張した、
そのことが陶芸を、彫刻や建築と同等の意味と重さを持つ現代の芸術たらしめたのだ”と述べています。
ほかにも、このテキストには、館長が40年余り前に、生前のコパーに直接会った時の印象や、
波乱に富んだ彼の人生を含め、コパーとその作品を巡る深い思索が、分かりやすく説得的に語られていて、
日本語で読める数少ないコパーについての評論として、お勧めです。
a.ik