2012年03月07日知られざる名コレクション① ”志田コレクション”竹久夢二
「竹久夢二と静岡ゆかりの美術」展、みなさまご覧いただけましたでしょうか?
今回は「知られざる名コレクション」と銘打って展覧会の魅力を改めてご紹介いたします。
ちょっと長いですが…どうぞお付き合いください。
竹久夢二といえば、”夢二式”と呼ばれるその叙情的な美人画で今なお根強い人気を誇ります。
また最近では、若手デザイナーらによる夢二のグラフィックをモチーフにした様々なデザイン展開が見られ、
“夢二風”の雑貨類も目にすることが増えました。
明治末から大正期、和と洋が入り混じった世の風潮を鋭敏に察知し、
封筒や便箋、半襟や着物のデザインなどを手掛け、一躍時代の寵児となった夢二。
また、57冊の自著装幀本を含む300冊に及ぶ本の装幀、「セノオ楽譜」に代表される楽譜の装画なども手掛け、
「装幀」の仕事を芸術の域にまで高めました。
自著装幀本を一枚一枚めくってみると、時にあでやかな浮世絵風美人、
時に可愛らしい動物のカット、そして溜息が出るような、粋な見返し…。
そんな、夢二の世界に魅了され、自らを「熱烈なファン」と称し、夢二作品を蒐集した一人の女性がいます。
旧蒲原町在住の志田喜代江氏(1924~)です。
当館で収蔵する竹久夢二”志田コレクション”は、かつてはこの志田氏が愛蔵していた作品群でした。
平成19年度、静岡アートギャラリー(平成22年閉館)にて収蔵記念展を開催してから約4年。
この度当館開館一周年を機に、当館及び静岡市の収蔵品を中心とした「竹久夢二と静岡ゆかりの美術」展にて、
改めて”コレクター志田氏”を浮き彫りにする展覧会を企画しました。
志田氏の夢二蒐集の始まりは一冊の本。
「父から、『母の遺品だから大切に取っておくように』と渡された数冊の中に『青い小径』があった」
それまで夢二の名も知らなかった12歳の志田氏。
手に乗るほどの小さな本が「どんなにいとおしく思われましたことか」と、志田氏は懐述します。
以後、夢二の自著装幀本収集に没頭し、装幀物や絵ハガキ類が多数占めるコレクションは、
全国的にも珍しい、女性ならではの視点が反映されています。
また、本コレクションの代表作の肉筆《草に憩う女》、《時雨の炬燵・小春》双幅などは、
夢二作品の中でも、重要なものに位置付けられます。
今回、志田氏の作品蒐集過程を調査し、旧蒲原町内の2人の夢二愛好家の存在が明らかとなりました。
志田氏が一目ぼれした肉筆《木に寄る女》などを所有していた旧蒲原町特定郵便局長のS氏、
コレクションの白眉、夢二の《日記帳》を所有していたU氏です。
U氏は全国の夢二蒐集家が集う夢二会や、旧蒲原町の郷土史研究の先輩でもありました。
かつてU氏が所蔵した多数の作品が志田氏の手に渡ったことは、その所蔵印で確認することができます。
彼らが所有していた夢二作品は、若き志田氏の夢二への情熱にほだされ、自然と志田氏の元に集まっていったのでしょう。
本展では、これらの作品を一堂に会し、志田コレクションの魅力を存分に味わって頂ける内容となっています。
もちろん、志田氏の愛した夢二自著装幀本も勢ぞろい。
展示室内には複製本がございますので、ぜひ手に取ってページをめくってみてください。
皆さまのご来館、お待ちしております。
(s.m)