2012年03月16日知られざる名コレクション③ 江尻が生んだ平野富山

「竹久夢二と静岡ゆかりの美術」展前期展示で紹介した中川雄太郎作品と同様に、現在清水文化センターで保管している静岡市所蔵の富山作品と彼自身のコレクションも、旧清水市および遺族の協力なくしては成しえなかった、静岡市にとってかけがえのないコレクションです。

このコレクションは、旧清水市が遺族より寄贈を受け、以来、毎年清水文化センターで少しずつ公開していましたが、全作品を彼自身が作品制作の参考に蒐集したであろうコレクションとともに展示することは今回が初めてでしょう。

 

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富山は知る人ぞ知る、彩色木彫の名手。
彩色木彫とは、木を素材とした彫刻に、日本画で使う胡粉(ごふん)をぬり、その上に色をつけるというもので、日本の伝統的な木彫、例えば木の仏像、あるいは木でできた人形、置物などの彩色は、このような手法で作られているものが多くあります。

 

明治末期から大正初期にかけて、東京藝術大学の基礎となる東京美術学校を創立した岡倉天心を敬愛し、天心に認められ、写実的な木彫で有名な平櫛田中という日本を代表する木彫家がいます。
富山は、この田中の木彫の彩色の協力者でもあり、田中の彫刻の殆どの彩色を請け負っていました。
もちろん自身の彩色木彫作品も制作しています。

富山は、西欧のロダン風の彫塑(ちょうそ)が全盛だったころ、彩色木彫をより深めるために、彫塑を学び、日展の彫塑作家としても名の知られる存在にまでなりました。
晩年の作には、日本の伝統的な主題、例えば《羽衣》《鏡獅子》や仏像などの他に、《花ごころ》など、モダンな女性像も制作しています。
仏像や能に取材した作品の着物の織り目までも描きだした、迫真的な描写力はまさに見事ですが、裸婦像にみる白い肌もまた美しく、まさに彩色木彫の美といえるでしょう。

 

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この度、当館でこうした優れたコレクションを展示公開することが、雄太郎や富山といった静岡が生んだ作家の再評価につながり、かつ市民の皆様に静岡の生んだ優れた美の遺産を伝えることができれば幸いです。

 

 

「竹久夢二と静岡ゆかりの美術」展は3月25日(日)までの開催です。
ご来館、お待ちしております。

 

(e.y)