2012年08月17日“京・冷泉家と徳川家のコラボレーション”
冷泉家の乞巧奠(星祭り)は、毎年旧暦の七月七日に行われます。
これは年に一夜の星の逢瀬(おうせ)を祝し、かつ技の巧みな星に自らの技を手向けて上達を祈る、というものだそうです。和歌の宗家である冷泉家では、七夕の日の夕方、二星にむかって雅楽を奏し、和歌を手向け、兼題を披講(ひこう/声に出して詠む)し、次に「流れの座」となり、白布を天の川に見立て、男女が相対し、歌を詠みかわして贈答するそうです。
本展で展示している乞巧奠の祭壇 星の座は、織姫と彦星に手向けられた、お供物といっていいでしょう。
角盥(つのだらい)には梶(かじ)の葉を浮かべ、九本の灯台に明かりをともし、海の幸、山の幸を各九種、秋の七草、五色の絹・糸、そして雅楽の楽器(琴と琵琶)を飾る。
この雅楽の楽器、本展では静岡浅間神社の御好意で、江戸幕府十五代将軍・徳川慶喜の父、徳川斉昭が自ら作り愛用したと伝えられる琵琶を二星に手向けています。
この琵琶は、雅楽の家である東儀家が、安政三年に斉昭より賜り、大正十三年に東儀家より静岡浅間神社へ奉納されたもの。
平安時代以来、宮中の年中行事として伝えられた乞巧奠の形を、ほぼそのまま守り伝える冷泉家の星の座もなかなか目にする機会はありませんが、冷泉家の星の座と斉昭の琵琶が一緒に展示されることは、今後、おそらくないでしょう。
冷泉家も、静岡ならではのこの趣向を大いに喜んで下さり今回実現しました!
因みに徳川将軍家には中華文人の書斎を飾る文具が「七夕飾文具」として伝来しています。幕末から明治期には既に、乞巧奠は主に女性の裁縫や書道の上達を祈るものとして浸透していましたが、高貴な男性の詩文書画の上達を祈り、七夕飾りに文房四宝が選ばれていたとすれば、これまた興味深いことですね。
本展では第十四代将軍家茂の所用品でガラス製の異国趣味の文具と、徳川宗家第十六代を継ぎ、初代静岡藩知事となった家達(いえさと)の文人好みの四君子(蘭竹梅菊)の意匠で統一された七夕飾文具を展示しています。
公家社会で伝えられてきた七夕の行事も、江戸時代には五節句の一つとしてどちらかといえば女子の行事としての色が強かったようにも思いますが、静岡や徳川家とのかかわりの中で、本展では意外な展開を見ることができました。
年に一夜の星の逢瀬(おうせ)どころか、もう二度とない、取り合わせでしょう。
本展も残り2日となりました。この機会をぜひお見逃しなく!
(e.y.)