2013年08月17日ルドン展 見逃せない作品!【後篇】
8月25日(日)までの会期となる
「オディロン・ルドン 夢の起源 幻想のふるさと、ボルドーから」は全国4会場を回る巡回展です。
当館は東京の損保ジャパン東郷青児美術館さんに続く、2会場目の会場です。
見逃せない作品【後篇】は、静岡展で展示が終了してしまう2点と、
静岡展と岐阜展にしか出品されない1点の油彩作品をご紹介します。
ギャラリートークでは、時間の都合もあり、なかなかご紹介出来なかった作品たちです。
オディロン・ルドン≪アレゴリー―太陽によって赤く染め得られたのではない赤い木≫1905 年 油彩、画布 三重県立美術館
≪アレゴリー≫または≪太陽によって赤く染められたのではない赤い木≫と呼ばれている作品です。
右側の真っ赤な木の前に、腰布を巻いた裸の男性と、その傍らにははっきりとはしませんが
ヴェールを被った女性らしき人物が描かれています。
印象的な赤い木は、晩年のルドンの作品にしばしば出てくるモチーフで、
今回の展覧会チラシのメインイメージにもなっている≪神秘的な対話≫(1896年頃、岐阜県美術館蔵)でも、
女性が赤い枝を手にしています。
主題もタイトルのアレゴリーも何かははっきりとはしないですが、右側の男性をよく見ると…
大きな貝の上に立っています。
貝殻の上に人物が立っている人物、といえば、皆さんもご存知の
ボッティチェッリの≪ヴィーナスの誕生≫がすぐに思い浮かびます。
けれど、この人物をウェヌス(ヴィーナス)と見るには、
あまりにも男性的なプロポーションですし、ホタテガイではなく何故かムール貝のような形をした貝…。
ルドンには、ウェヌスの誕生を題材にした作品や、貝殻だけ写生した他の作品もあります。
お気に入りのモチーフを繰り返すルドンですが、他の作品と比較してみるのも面白いかもしれません。
オディロン・ルドン≪ペガサスに乗るミューズ≫1907年-10年頃 油彩、画布 群馬県立近代美術館
お気に入りのモチーフを繰り返すルドンが、「色」の世界で数多く描いたのが、
ギリシャ神話に登場するアポロン。
ルドン晩年のヒット作ということでもありますが、
本展ではそのアポロンシリーズを3点並べて展示しています。
特にボルドー美術館の作品は油彩とパステルの混合技法で描かれた、
サイズも大きくて見応えのある作品です。
この≪ペガサスに乗るミューズ≫は、ルドンがアポロンのシリーズを
描いていたのと同じ時期に描かれた作品です。
ミューズとは、ギリシャ神話の女神のことですが、
研究者のなかには、この描かれた人物をアウロラではないかとする人もいます。
アウロラはアポロンの姉妹で、夜の間に天空を駆け、昼を導く「曙」の神と言われています。
アポロンも太陽神ですが、ルドンはこの光を司る2人を扱いながら、
どこまでも飛躍するイメージを作り出しています。
そして、周りに広がるピンクや紫色の空と雲、
右側の花や植物を思わせる筆跡など、印刷物や写真ではなかなか再現できません。
ルドンの作品は、どれも印刷で再現するのは難しい微妙なニュアンスがあるのですが、
だからこそ!是非本物の作品に出会いに来てください。
「色」の世界の作品は、絵と対峙すると本当に色々なことに気づかされます。
オディロン・ルドン≪若き日の仏陀≫1905年 油彩、画布 京都国立近代美術館
そして最後の見逃せない作品は京都国立近代美術館所蔵の≪若き日の仏陀≫。
実はこの作品、日本画家の土田麦僊(1887-1936)が、パリに滞在した際、
現地で購入し日本に持ち帰った作品です。
今回出品されている大原美術館の≪鐘楼守≫と同時期に日本に入った最初のルドン作品です。
ルドンは仏陀を主題にした作品を8点ほど制作しているのですが、
仏教だけでなく、オルフェウス教、ピタゴラス教などに共通する輪廻転生の思想は、当時の西洋人を魅了しました。
穏やかな雰囲気の本作、周りには≪眼をとじて≫や≪オフィーリア≫など、
眼をつぶる人物が描かれた作品が並び、展示室に静かな空気が流れています。
どの作品も国内の美術館に所蔵されている作品ですが、
他の作品と一緒にご鑑賞頂ける貴重な機会です!どうぞお見逃しなく!
(a.i.)