2016年05月17日都市の陶芸家 ルーシー・リー
ウィーンの裕福なユダヤ人家庭に生まれたルーシー・リーが、
ナチスによるオーストリア侵攻を機にロンドンへ避難してきたのは1938年のこと。
翌年ハイド・パーク周辺のアルビオン・ミューズと呼ばれる場所に住居兼工房を見つけます。
リーはこの工房で1995年に亡くなるまでの約60年制作を続けました。
小さく高い高台と口縁部が広がった薄作りの鉢、
パーツを組み合わせて作り出された伸びやかな花器。
さらにそれらフォルムと一体となった、目を惹く鮮やかな釉薬。
様々な実験を経て、ルーシー・リーならではのスタイルが生み出されました。
リーが使用していた電気窯は、高温焼成が可能で、
素焼きをせずに一回の焼成しか行わないという、彼女の最も特徴的な作陶を可能としました。
また設置場所が省スペースで済み、さらに燃料で炊く窯のように
炎の偶然性に左右されにくいという利点もあります。
釉薬の研究や実験を繰り返しながらフォルムや色を追求し、
意識的なものづくりを半世紀以上にわたって続けたリーの芯の強さ。
これが、彼女の華やかな作品のなかに漂う、凛とした気品に繋がっているのかもしれません。
本展では初期から晩年にいたる約200点が出品され、その大半が初公開となります。
また近年新たに発見された、ウィーン時代の作品も紹介されています。
2010年の国立新美術館で開催された回顧展を経て、
日本でのルーシー・リー人気には目を見張るものがあります。
ブームや「かわいい」という言葉だけで片づけてしまうには惜しい、
ルーシー・リーの魅力が詰まった展覧会です。どうぞご覧ください。
リーの工房の一部が再現されています(画像)。
写真右手に見えるのは、リーが実際に使用していた回転轆轤。
左手の棚に積み上げられているのは、
戦時下に生計を立てるために制作していた陶製のボタンのための石膏型。
(a.i)