2017年04月02日メキシコの「光」と「影」

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メキシコを代表する写真家マヌエル・アルバレス・ブラボ。

100歳まで生き、まさにひとつの時代を眺めてきた作家ですが、

その眼差しは常に自国メキシコの文化と生活に向けられていました。

 

アルバレス・ブラボが本格的に写真を撮り始めたのは1920年代末。

メキシコ革命の動乱がひと段落し、芸術の分野では

壁画運動の3巨匠オロスコ、リベラ、シケイロスが活躍をみせた頃でした。

彼らは古代メキシコの 栄光や革命の歴史、また新生メキシコの建国精神などを、

公共建築物の巨大な壁面に力強いイメージで描きました。

 

また1937年には革命家トロツキーが、

翌年にはシュルレアリスムの主導者アンドレ・ブルトンがメキシコを訪れ、

当時のメキシコは、最も国際的な文化交流の場となっていました。

しかしこの活気に満ちた時代のなかにあっても、

アルバレス・ブラボが撮るモノクロの写真世界には、静かで詩的な世界が広がっています。

 

この時期の代表作のひとつ《夢想》では、少女が頬に手を添え、物憂げな表情を浮かべています。

少女は何を考え、何処を見ているのでしょうか。

境界線のような柵の手前にいる私たちには、彼女の心の世界を見ることはできないのかもしれません。

 

また、街角の眼鏡屋の看板を写した《眼の寓話》は、よく見ると裏焼きで、文字が逆さまになっています。

これらの作品には「こちら」と「あちら」、「表」と「裏」といった2つの要素が同居しています。

 

メキシコの人々の思想の根幹には、先スペイン期から継承した「二元性」の概念があると言われています。

これは、世界に存在するあらゆるものは2種類の要素で成り立ち、

それらは対立するのでなく補完しあう関係である、という考えです。

毎年11月に行われる「死者の日」のお祭りは、

生と死も円環を成す存在であるというメキシコの死生観を最もよく表していると言えるでしょう。

 

アルバレス・ブラボの作品は、私たちが思い描く鮮やかな色に彩られたメキシコのイメージとは異なりますが、

そこには深くメキシコの精神が息づいています。

彼の作品に潜む、この複雑で多層的な意味を読み解いていくと、

写真もまた「光」と「影」の芸術であったということを思い起こすのです。

 

(a.i.)

 

 

IMG_9947-tyousei.jpgのサムネイル画像

 

展覧会チラシには《夢想》を、しおりサイズのミニチラシには《眼の寓話》を使用しています。

ぜひお手に取ってご覧ください。

 

「アルバレス・ブラボ写真展―メキシコ、静かなる光と時」

会期:2019年4月8日(土)~5月28日(日)

観覧料:一般1000(800)円、大高生・70歳以上800(600)円、中学生以下無料

*( )内は前売りおよび当日に限り20名以上の団体料金

*障害者手帳等をお持ちの方及び介助者原則1名は無料

 

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