2020年03月25日「不思議の国のアリス展」作品紹介③ アーサー・ラッカム《ニセウミガメ》

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アーサー・ラッカム《ニセウミガメ》 1907年
ペン、インク、水彩/紙 コーシャク・コレクション  ©The Korshak Collection


ルイス・キャロルとマクミラン社との間で取り決められた『不思議の国のアリス』の版権が切れた1907年以降、様々な画家が独自の解釈でアリスの挿絵を描いてきました。

その先駆けとなったのが、アーサー・ラッカムです。

彼は『グリム童話』や『ガリバー旅行記』といった名作のイラストも数多く手掛け、20世紀初頭の英国を代表する挿絵画家の一人として、今日高く評価されています。

ラッカムはペンを用いたしなやかな線で、不思議の国の住人から背景の草木までを緻密に描き、褐色の穏やかな彩色で物語に新風を吹き込みました。

しかしそれは、多くの後世の画家たちがそうであったように、初刊本で著者キャロルと共に揺るぎないアリス像を築き上げた挿絵画家ジョン・テニエルへの挑戦でもありました。

ところがラッカムが描いた新たなアリス像は、テニエルのそれが脳裏に深く刻み込まれていた当時の人々には容易に受け入れられませんでした。

その現実に苦しんだ彼は、後年出版社から続編『鏡の国のアリス』の挿絵依頼を受けましたが、頑なに拒み続けたといいます。

(t.t)