2013年08月16日ルドン展 見逃せない作品!【前篇】
6月29日から始まった「オディロン・ルドン 夢の起源 幻想のふるさと、ボルドーから」も
会期残すところ、あと8日。
会期中は、本展監修者の山本敦子先生や多摩美術大学教授の本江邦夫先生の講演会をはじめ、
閉館後にワインと展覧会を楽しむ特別鑑賞会、ルドンと同時代の音楽をピアノで楽しむ「ミュージアム・サロン・コンサート」、
ギャラリートークなど、さまざまなイベントが行われました。
そして、ルドンも使っていたパステルで絵を描くプログラム
「しずびオープンアトリエ ルドンの”色”とあそぼう!」も、いよいよ今週末18日までとなります。
残りわずかの会期ですが、ルドン展のこれだけは見逃せない!
という作品をご紹介したいと思います。
今回の展覧会はルドンが生まれたフランス、ボルドーにある、
ボルドー美術館から約40点が出品されています。
ボルドー美術館は、ルドンの青年期の作品をはじめ、
画家のルーツを辿ることができるような重要な作品を所蔵しています。
ルドンは39歳の時、版画集『夢のなかで』を制作し、実質的な画家としてデビューします。
皆さんお馴染の、にやりと笑う10本足の蜘蛛や、目玉のついた気球、
人間の顔がついた花など、黒一色の怪奇で幻想的な世界を展開するのですが、
50歳をすぎると油絵やパステルを使った色の世界へと変貌します。
この≪神秘的な騎士、あるいはオイディプスとスフィンクス≫は、
ルドンが「黒」から「色彩」へと移行する時期に描かれた作品です。
オディロン・ルドン≪神秘的な騎士、あるいはオイディプスとスフィンクス≫1892年頃 木炭、パステルで加筆、画布で裏打ちした紙 ボルドー美術館
神殿のような背景や描かれた人物から、ルドンが影響を受けた画家の一人
ギュスターヴ・モローの≪オイディプスとスフィンクス≫や≪オルフェウスの首をもつトラキアの乙女≫を思わせます。
けれどこの作品は、2つの神話の要素が入り混じっていたり、細部まで描いていなかったり…
と曖昧な部分が多いです。ルドンにとっては、神話や宗教の物語を正確に描くことよりも、
自らの内面のイメージを描くことが大事だったのかもしれません。
また、この作品は黒の時代に多用していた木炭で描いた上に、パステルで加筆されています。
白のハッチングや、青の光るような深い色彩は、実際の作品を前にしてこそわかる美しさです。
謎めいた主題、描ききらない曖昧さ、禁欲的な色彩など、決して派手さはないですが、
観るものに様々なことを想起させる、まさに象徴性を感じさせる一枚です。
この作品は神秘主義的な美術雑誌『心(ル・クール)』で大体的に紹介され、
評判を呼んだ作品としても知られています。
ちなみに、ルドンはこの時期、神秘主義者たちが集まるオカルトちっくな書店で個展も開いていたりもします。
そして、会場の最後に飾られているこの作品。
オディロン・ルドン≪聖母≫1916年 油彩、画布 ボルドー美術館(オルセー美術館からの委託)
ルドンは1916年76歳で亡くなりますが、
亡くなった時にアトリエのイーゼルに載せられていたのがこの作品でした。
時代は第一次世界大戦の真只中、ルドン最愛の息子アリは前線にいて、父親の最期には間に合いませんでした。
祈るような聖母の姿は、アリのために描かれたようです。
ボルドー美術館には、そのアリが保管していたコレクションが寄託されています。
本作は未完の作品ですが、このような作品に出会えるもの、本展だからこそ。
どうぞお見逃しなく!
(a.i.)