2020年08月07日ショパン―200年の肖像
8月1日(土)より開幕した「ショパンー200年の肖像」は、
ショパンの故郷ポーランドにある国立フリデリク・ショパン研究所(略称NIFC)の
全面的な協力によって開催される展覧会です。
NIFCは、2001年にショパンの遺産保護に関する法律が成立したことを機に創立された、国家機関です。
この時、ショパンに関するあらゆる遺産は “国が主体となって守るべきもの”となったのです。
NIFCは5年に一度開催される「ショパン国際ピアノコンクール」の主催者でもあり、
関連機関のひとつであるショパン博物館のコレクションの一部は、ユネスコの世界記憶遺産にも登録されています。
博物館のなかでも特に重要視されているのは、ショパン直筆による楽譜や手紙です。
本国でも公開の機会が限られる、まさに「ポーランドの至宝」ともいうべき資料です。
本展で日本初公開となる《エチュード へ長調 作品10-8、自筆譜(製版用)》(1833年以前)をよく見てみると、
丁寧に書かれた楽譜の所々にショパン自身による修正がみられ、作曲の過程での思考の軌跡が分かります。
また、親しい友人宛に出した手紙からは、歴史上の遠い存在ではなく、
一人の人間としてのショパンの姿が浮かび上がってきます。
その他ショパンに直接関係がある出品作といえば、デスマスクと左手像です。
後年鋳造されたものではありますが、本人から直接型取りされたデスマスクは、
ショパンの“存在の写し”に他なりません。
西洋近代においてデスマスクは、単に故人の面影を伝える役割だけでなく、
天才/英雄崇拝と結びつき、繰り返し複製されてきました。
多くの人が偉人たちの存在(の写し)を手元に置くことを望み、
さらに美術作品のように鑑賞したり、解釈を加えようとしたのです。
(こうしたデスマスクをめぐる興味深いイマージュの問題については、
美術史家・岡田温司氏の『デスマスク』(岩波新書、2011年)を参照ください)
本展ではショパンと同時代に描かれた肖像画のほか、
後の時代の画家によるショパン像も複数出品されます。
彼が残した曲の影響力はもちろんのこと、更新され続けるショパン・イメージの根っこには、
肖像彫刻としてのデスマスクも深く関わっているのかもしれません。
(a.i.)