2021年07月29日吉田博 旅と風景(3)「木版画との出会い」

油彩画を中心に描いていた博の転機は、大正12(1923)年12月からの外遊でした。関東大震災の被災画家救済のため、約1年間をかけてボストン、シカゴなど各地でチャリティー販売の巡回展を開きました。しかし、9月の震災から時間が経っていたこともあり販売には苦労したといいます。唯一好評だったのは、版元の渡邊版画店から依頼されて吉田も原画を描いた木版画でした。

帰国後、吉田は版元を頼らず、自ら彫師と摺師を抱えて木版画制作に乗り出します。また、自分でも職人に負けない技術を身につけました。初の私家版として版行したのがアメリカ西部を中心に雄大な自然を描いた「米国シリーズ」でした。以後、「欧州シリーズ」「日本アルプス十二題」「瀬戸内海集」など立て続けに風景版画の連作を発表し、70歳までの20年ほどの間に約250種もの木版画を制作しました。まさに、後半生の大事業といえます。

吉田の版画は、西洋風の写実的な描写と伝統木版技術を融合した独自のものです。特にアメリカでは人気を得て、現在も多くの美術館やコレクターが収蔵しています。ダイアナ妃や心理学者のフロイトも吉田の木版画を飾っていたことが知られています。日本人として、世界に通用する絵を描くという吉田博の生涯の目標は、まさに木版画によって達成されたといえるのではないでしょうか。

 

《米国シリーズ レニヤ山》大正14(1925)年、木版・紙


 

(k.y)

 

没後70年 吉田博展

会期:2021年6月19日(土)~8月29日(日)
*会期中、一部展示替えがあります(前期7/25まで、後期7/27から)
休館日:毎週月曜日(ただし8月9日(月・休)は開館)、8月10日(火)