2022年06月05日「スイス プチ・パレ美術館展」―人物紹介③ ルノワールとヴァリエール=メルツバッハ
サテン地のドレスに身を包み、ゆったりと椅子に腰かけているのは、後に詩人となるアリス・ヴァリエール=メルツバッハです。30代の頃、詩人になる前の姿と推測されています。
当時、ルノワールはリウマチの療養のため南仏のカーニュで暮らしており、本作もこの地で描かれたと考えられます。すでに人気画家として経済的に余裕のあったルノワールは親しい愛好家や画商からの注文しか受けなくなっていました。メルツバッハの手記によると、ルノワールは彼女から制作の依頼を受けた際も、最初は躊躇したそうですが、帽子を取ったその容姿を見て態度を一変。白いサテン地のドレスを彼女に着せ、嬉々として制作に励んだといいます。薄く溶いた絵の具を幾層にも重ねる手法は、晩年のルノワールが好んで用いたもので、透明感のある色彩によって、健康的な血色と洗練された上品さが巧みに表現されています。
参考文献
Exh. Cat., Renoir au XXe siècle, Paris : Grand Palais, 2009, p. 290.
(c.f)
「スイス プチ・パレ美術館展 花ひらくフランス絵画」
会期:2022年4月9日(土)~6月19日(日)
休館日:毎週月曜日