2022年08月18日【THE HEROES展】刀剣の見どころ①《太刀 銘 安綱》
《太刀 銘 安綱》 平安時代(11世紀) ボストン美術館
良質の砂鉄を豊富に産出した中国山地の周辺地域では、古墳や関連遺跡からの出土遺物によって6世紀後期頃から盛んに鉄生産が行われていたことが確認されています。特に岡山県南東部に位置した備前国と鳥取県西部にあたる山陰の伯耆国(ほうきのくに)は、恵まれた鉱産資源と古代から培われた製鉄技術を活かし、平安時代後期から盛んに刀剣制作が行われました。
伯耆鍛冶の事実上の祖である安綱は、応永30年(1423)の書写奥書のある刀剣書『観智院本銘尽』(重文・国立国会図書館蔵)では一条天皇(980-1011)の頃の人と記されています。それはまさに古代の直刀から鎬造(しのぎづくり)で反りのついた日本刀の様式が完成する過渡期にあたり、京の名工・三条宗近と同時代の活躍と考えられます。一門からは安家、真守、有綱らの名工が輩出し、鎌倉時代初頭にかけて隆盛しました。
安綱の有銘作品は20口ほどが現存し、中でも源頼光が大江山の酒呑童子を退治した際に使用したと伝わる《名物童子切安綱》(国宝・東京国立博物館蔵)が代表作として知られています。
ボストン美術館所蔵の太刀は茎(なかご)を磨上げて当初から10㎝ほど寸法を短くしていますが、現存する安綱の作品では特に長大な太刀です。腰元で強く反りがついた姿に小乱れを交えた細直刃風の刃文を焼いた古雅な作風で、力強さと美しさを兼ね備えています。また棟の鋒(きっさき)寄りには打込疵(うちこみきず)が確認でき、戦場での華々しい働きを想像することができます。
(t.t)
「ボストン美術館所蔵 THE HEROES 刀剣×浮世絵-武者たちの物語」
会期:8月28日(日)まで(毎週月曜休館)