2022年08月18日【THE HEROES展】刀剣の見どころ② 国宝《太刀 銘 正恒》
国宝《太刀 銘 正恒》 平安時代(11世紀)ふくやま美術館(小松安弘コレクション)
日本最大の刀剣産地だった備前国で平安時代後期から鎌倉時代初期に活躍した鍛冶たちを「古備前」と呼び、友成、包平、真恒、信房らの存在が知られています。正恒はその古備前鍛冶を代表する一人ですが、比較的多くの作品が遺されており、それらは作風や銘の切り方が一様でないことから、同名で数人が存在したことが確実です。
万治4年(1661)に刊行されて普及した刀剣書『古今銘尽』では、正恒を名乗る刀工が備前国内だけでも5名存在したと述べられています。また隣国備中(現・岡山県南西部)にも同時代に同名工の活躍が知られています。それらはいずれも作風に共通する特徴が認められることから、技術的な交流があったと考えられます。
一般に正恒の太刀は、身幅がやや広く腰反りがついた姿、よく整った板目の鍛え肌に小乱れを交えた直刃調の刃文を焼くのが特徴です。この太刀は制作当初の姿をよく留めていて、小ぶりな鋒(きっさき)に腰反りの高い美しい姿、広直刃調に小乱れ・小丁子を交えた刃文など、最も古調で最高傑作と称えられる名刀です。
鎌倉時代末期の成立と考えられる刀剣書『観智院本銘尽』には、下野国足利庄の豪族で治承4年に以仁王が挙兵した際、平家に味方した足利忠綱の太刀も正恒の作だったことが伝えられています。阿波徳島藩主蜂須賀家に伝来した本作も、鎬地(しのぎじ)に残る切込痕が実戦で使用されたことを物語っています。
(t.t)
「ボストン美術館所蔵 THE HEROES 刀剣×浮世絵-武者たちの物語」
会期:8月28日(日)まで(毎週月曜休館)