• 2024年05月17日 平櫛󠄁田中と歩んだ彩色木彫、追求の軌跡

    日本近代彫刻史上、重要な彩色木彫家の一人である平野富山(ひらのふざん)。その60年余りの作家人生の約半世紀もの間、平櫛󠄁田中(ひらくしでんちゅう)の彩色担当者を務めました。田中といえば、国立劇場ロビーで長年公開された※大作《鏡獅子》で知られますが、本作の彩色も富山が担っています。
    ※国立劇場の建替えに伴い、2029年まで田中の故郷・岡山県の井原市立平櫛󠄁田中美術館で長期公開中

    平櫛󠄁田中《試作鏡獅子》昭和20年(1945) 木,彩色 株式会社歌舞伎座


    彩色木彫とは、彫刻した木地に日本画絵の具で彩色したものですが、木という素材の特性上、収縮や膨張、表面に樹脂が染み出るなどのリスクを伴います。これらの対処に通常は膠を混ぜた胡粉を下塗りします。しかし《鏡獅子》では寄木造りに適しつつも樹脂が出やすい檜材が選ばれたため、生漆を塗り全面に箔押しする処置が採られました。富山はこの様な彩色方法を田中とともに検討しましたが、作品の印象を決める文様選びについては特に田中からの細かな指示はなく、富山が提案したといいます。

    つまり彩色担当者である富山には十分な知識と高い技術が求められた訳です。富山が師匠の後を継いで一人で彩色を担当したのは25歳の頃。田中とは親子ほどの年齢差がありました。富山は猛烈に勉強して腕を磨き、時には彩色を巡って田中と渡り合い「わしに意見するのは平野だけだ」と言わしめたといいます。

    平櫛󠄁田中《霊亀随》昭和11年(1936)※彩色は後年 木,彩色 日本芸術院 ※文化庁許可済


    富山は生前、彩色木彫における彫刻と彩色の関係性を「不即不離」と言い表しました。不即不離とは二つのものがつかず離れずちょうどよい関係にある、という意味です。彫刻と彩色が均衡のとれた関係にあるからこそ成立するということでしょう。この言葉は、彫刻家と彩色担当者、まさに田中と富山の関係性をも表すものではないでしょうか。彩色担当者は作品の質を左右する重大な役割を担っていたのです。

    田中とともに、そして自らの彩色木彫を生涯かけて追求した富山。その足取りは日本近代彫刻史の中に確かに刻まれています。

     

    (s.o)

     


    「没後35周年記念 平野富山展 ―平櫛󠄁田中と歩んだ彩色木彫、追求の軌跡」
    会期:2024年6月6日(木)~7月15日(月・祝)
    ◎お得な前売券は6月5日(水)まで静岡市美術館、プレイガイド等で販売

     

  • 2024年05月03日 「京都 細見美術館の名品」来場者が1万人を達成!

    5月3日(祝)に「京都 細見美術館の名品―琳派、若冲、ときめきの日本美術―」の来場者が1万人を達成しました。
    1万人目は、沼津市からお越しのご友人お二人です。

    新聞で本展覧会の情報を知り来館したとのこと。
    若冲が好きで、写真や画像ではわからない若冲の色彩を間近で見るのが楽しみ、とお話しくださいました。

     

     


     

    お二人には、特別協賛社(セキスイハイム東海)、本展主催者(静岡新聞社・静岡放送)、静岡市美術館より記念品を贈呈しました。おめでとうございます!

     

    「京都 細見美術館の名品」は5/26(日)まで開催しています。
    先週から、重要文化財《金銅春日神鹿御正体》の展示が始まりました。
    本展では、細見美術館の約1000点に及ぶ良質なコレクションの中から重要文化財8件を含む名品104件を厳選して紹介します。コレクターの心をときめかせ、魅了した美の世界をお楽しみください。

     

    (c.o)

     

    ●京都 細見美術館の名品―琳派、若冲、ときめきの日本美術―
    2024年4月13日(土)~5月26日(日)

     

     

  • 2024年04月30日 【ワークショップレポート】しずびチビッこプログラム(「細見美術館の名品」展)

    4/28(土)にしずびチビッこプログラム(「細見美術館の名品」展)を開催しました。
    しずびチビッこプログラムは小さな子ども達のためのアート体験プログラム。
    お子さまがプログラムを体験中、保護者の方には展覧会(今回は「細見美術館の名品」展)をご覧いただきます。

    今回は2歳から5歳の子どもたちが、出品作品を参考に螺鈿*(らでん)や蒔絵*(まきえ)の技法に挑戦しました。

    *螺鈿(らでん)…夜光貝や鮑貝などの貝殻の真珠層を切り抜き貼りつける技法。
    *蒔絵(まきえ)…漆で模様を描き、その漆が乾かないうちに金粉、銀粉などを蒔き付ける技法。

    はじめに出品作品をモニターで鑑賞。


    虫や鳥の絵に興味津々です👀

     


    まずは金色の筆で練習してから、本番用のお皿に松や梅などを描いていきます。


    今回は真鍮製の粉を使用し、蒔絵の表現に挑戦しました。


    好きな場所に貝殻を貼り付け装飾したら、完成!


    琳派の絵師たちもびっくり!?な華やかな作品ができあがりました✨

     

    静岡市美術館では年間を通して様々なワークショップを開催しています。
    「しずびチビッこプログラム」は今年度も各展覧会にあわせ開催を予定してします。
    そのほか、今後のイベントの最新情報は当館HP内「これからのイベント」をご覧ください。

     

    (m.o)

     

  • 2024年03月10日 コレクターを魅了した日本美術の名品

    京都・岡崎に位置する細見美術館には、1000点に及ぶ日本美術の名品が所蔵されている。本コレクションは昭和の実業家・細見良(初代古香庵)、實氏(二代目)、良行氏(三代目・同館館長)が80年余りを費やし蒐集したもので、幅広い年代と分野で日本美術史を総覧し、国内外から高い評価を受けている。

    細見良氏は基本的に日本美術を幅広く蒐集したが、とりわけ仏教・神道美術の造形に美を見出した。重要文化財《金銅春日神鹿御正体》(4/27~5/26展示)をはじめ、優美な意匠の和鏡、鮮やかな彩色の仏画などが確かな鑑識眼で選び抜かれ、また茶の湯釜や根来塗の蒐集・研究にも情熱を注いだ。二代目の實氏は驚くべき先見性を持ち、琳派や伊藤若冲など、当時国内ではまだ評価がさほど高くなかった江戸絵画を好んで蒐集した。伊藤若冲の初期作《雪中雄鶏図》(通期)や琳派の創始・俵屋宗達から江戸中期の尾形光琳、江戸琳派の酒井抱一や鈴木其一、そして近代の神坂雪佳と、琳派350年の系譜を網羅する作品は必見である。三代目の良行氏もまた現代美術を含めた日本美術を蒐集する一方、この良質なコレクションを次世代に継承するため細見美術館の設立を主導した。

    2023年、細見美術館は開館25周年を迎えた。その記念として開催される本展は、古墳時代の考古遺物や平安・鎌倉時代の仏教・神道美術、室町時代の水墨画、茶の湯釜、桃山時代の七宝装飾、茶陶、江戸時代の琳派、伊藤若冲のほか風俗図屏風、肉筆浮世絵など、重要文化財8件を含む厳選した104件により細見コレクションの魅力を紹介する。細見家三代を魅了した日本美術の名品を一堂に会す貴重な機会であり、ぜひ当館でご覧いただきたい。

     


    (s.o)

     

    ●京都 細見美術館の名品―琳派、若冲、ときめきの日本美術―
    2024年4月13日(土)~5月26日(日)
    前売券は4月12日(金)まで販売。お得な一般前売ペアチケットも!

     

     

  • 2024年03月03日 「高畑勲展」来場者が2万人を達成!

    3月1日(金)に「高畑勲展 ―日本のアニメーションに遺したもの」の来場者が2万人を達成しました。
    2万人目は、市内ご出身の大学生のお三方です。

    長期休暇で久しぶりに集まる機会に、美術館めぐりをしようということで
    高畑勲展に来てくださいました。

    高畑監督の作品は今まで意識したことがなかったけれど、
    「アルプスの少女ハイジ」や「ドラえもん」、「ルパン三世」などのテレビシリーズにも関わっていたと初めて知り、
    多くの作品を生み出していることに驚いたとお話しいただきました。

    お三方には当館館長より記念品を贈呈しました。おめでとうございます!


    「高畑勲展 ―日本のアニメーションに遺したもの」は3/31(日)まで開催しています。
    半世紀にわたり日本のアニメーションをけん引し続けた、高畑勲監督作品の多面的な魅力を1300件超の作品と資料でご紹介します。


    閉幕間際は混雑が予想されますので、気になる方はぜひお早めにお出かけください👟

    (m.o)

     

     

  • 2024年02月03日 「高畑勲展」来場者が1万人を達成!

    2月2日(金)に「高畑勲展 ―日本のアニメーションに遺したもの」の来場者が1万人を達成しました。
    1万人目は、富士市からお越しの親子です。

    小学2年生の娘さんは絵を描くのが大好きで、将来の夢は漫画家とのこと!🎨
    高畑勲展でアニメーション作品のことを勉強したい、とお話しいただきました。

    お二人には当館館長より記念品を贈呈しました。おめでとうございます!


    『パンダコパンダ』のフォトスポットで記念撮影🐼📷

     

    「高畑勲展 ―日本のアニメーションに遺したもの」は3/31(日)まで開催しています。
    初公開を多数含む高畑監督直筆の制作ノートや企画書、音楽設定などの貴重な資料のほか、
    初期から高畑監督を支えたスタッフによる絵コンテやレイアウト、原画、背景画など1,300件超をとおして、名作アニメーション誕生の裏側を紹介します。


    会期中の2月には『かぐや姫の物語』等の映画上映会パラパラマンガキットプレゼント企画も開催!

    ぜひご家族みんなでお楽しみください。

     

    (m.o)

     

     

  • 2024年01月05日 手描きの線のもつ力

    『かぐや姫の物語』は、8年の歳月をかけ2013年に公開となった高畑勲監督の遺作です。この作品で高畑氏が目指したのは「スケッチのように描いた絵がそのまま動く」アニメーションでした。デジタル化が進み3DCG作品が注目を集める中、なぜ高畑氏の関心は真逆の方向へと向かっていったのでしょうか。

    これまで主流だったセルアニメーションは、キャラクターを描いた下絵を元にセル画(透明なシートに輪郭線を写し、裏から彩色する)が用意され、それを背景画の上に重ねて制作します。その過程で、下絵がどれほど素晴らしくてもトレースすることで線の勢いは失われ、色味も塗り絵のようにフラットな表現にならざるを得ません。
    このような表現上の制約と違和感を払拭すべく高畑氏が参考にしたものが、60代から研究を始めた平安時代の絵巻物でした。《鳥獣人物戯画》(高山寺蔵)などの自由闊達で生き生きと動きを感じさせる描線を目指した『かぐや姫の物語』は、それまでのセル画を乗り越える新しい表現として世界中のアニメーション関係者を驚かせました。また、絵はあえて小さいサイズで描きそれを拡大することで、線の質感やスピード感を画面に効果的に取り入れています。絵が動く原初的な感動と想像力を刺激する余白の美しさが見る者の心を動かします。

    『かぐや姫の物語』(2013年)  橋本晋治による原画
    ©2013 畑事務所・Studio Ghibli・NDHDMTK


    これはかぐや姫が疾走する場面の絵です。一枚の絵として見ると何が描かれているかわからないほど抽象的ですが、映像になると全身からかぐや姫の悲しみがひしひしと伝わるシーンになっています。「線で描かれた絵には、見る人の想像力を引き出す力がある」…生前、高畑氏は当館のご講演でそう語っていました。その言葉の意味を、皆さんもぜひ展覧会で味わってみてください。

    (m.y)


    「高畑勲展 ―日本のアニメーションに遺したもの」
    会期:2023年12月27日(水)〜2024年3月31日(日)

     

  • 2023年12月15日 美術館で創作体験!しずびのワークショップシリーズ紹介【ちょっとしずびへ #4】


    【ちょっとしずびへ】は、静岡市美術館へ行くときに役立つ情報や美術館を楽しむちょっとしたコツをご紹介するブログシリーズです。

    今回は静岡市美術館のワークショップシリーズをご紹介します。

    静岡市美術館では年間を通して様々な展覧会を開催するとともに、子どもから大人までを対象とした多彩なワークショップを開催しています。
    内容は開催中の展覧会に関連するものから、季節を感じられるもの、親子で参加するものなど、すべて当館のオリジナルプログラムです。and more

  • 2023年11月24日 NHK大河ドラマ特別展「どうする家康」の来場者が1万人を達成

    11月24日に、NHK大河ドラマ特別展「どうする家康」の来場者が1万人を達成しました。
    1万人目のお客様は、歴史ファンの親子。掛川市からお越しくださいました。

    お母さまは前期展示にも足を運んでくださったとのことで、後期展示の《太刀 無銘 光世 切付銘 妙純伝持ソハヤノツルキ ウツスナリ》を観るのが楽しみとお話しくださいました。
    息子さんはご自身の名前をモチーフにしたオリジナルの家紋を描いて見せてくれました。とっても素敵でしたよ♪


    お二人には、当館館長より記念品を贈呈しました。おめでとうございます!
    また美術館に遊びに来てくださいね。

     

    特別展「どうする家康」は、11月21日(火)から後期展示がスタートしました。
    12月13日(水)の閉幕まで毎日開館します。
    リピーター割引(有料チケットの半券提示で当日券から200円引き)もありますので、何度でも足をお運びください♪

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  • 2023年11月19日 徳川秀忠役・森崎ウィンさんが来場!‐ 後編 国宝《太刀 銘 真恒》

    静岡市美術館で開催中のNHK大河ドラマ特別展「どうする家康」。
    大河ドラマ「どうする家康」で家康の息子・徳川秀忠を演じる森崎ウィンさんに展覧会をご覧いただきました。
    ブログ後編では、秀忠が久能山東照宮に奉納した、国宝《太刀 銘 真恒》をご紹介します。
    <前編(徳川秀忠書状)はこちら>

     

    • 神となった家康に捧げた 国宝《太刀 銘 真恒》


    元和3年(1617)12月7日に行われた久能山東照社の正遷宮に際し、二代将軍・秀忠が奉納した古備前(こびぜん)真恒の太刀です。久能山東照宮には正遷宮や将軍の就任報告といった折々に歴代将軍から寄進され、刀剣が数多く伝来しますが、そのなかでも最も年代が遡る奉納品です。

    国宝《太刀 銘 真恒》 平安時代(12世紀) 久能山東照宮博物館 [通期展示]



    実物を目の前にして、太刀の大きさに驚かれていた森崎さん。
    通常の太刀の多くは70~80センチメートルほどの大きさですが、この太刀は約90センチメートルに迫る長寸で、身幅が広く豊かな反りがついた堂々とした姿は、平安期につくられた太刀のなかでは珍しいとされています。

    また、後世になると使い勝手が良いように寸法を切り詰めることもありますが、本作は全く手を加えられていません。しかるべきところにあった太刀を、秀忠が特別な品として奉納したと想像されます。制作された当初の姿のまま現在も鑑賞することができる数少ない例です。

     

    ガラス1枚を隔てていても、歴史の重みを感じたという森崎さんは、
    「その刀にまつわるストーリーを感じながら鑑賞できたことは、素敵な体験でした。
    また、あれだけ良い状態のままで残っているという、当時の職人たちの技術力の高さは、すごいものだなと思いました。」
    と話してくださいました。

     

    森崎さんのコメントは動画でご覧いただけます!


    このほか、家康が関ヶ原の戦いで着用し、大坂の陣にも携行したと伝わる吉祥の鎧《歯朶具足(伊予札黒糸威胴丸具足)》もご覧いただきました。



    森崎さん、ご来場ありがとうございました!

     

    大河ドラマも展覧会も、いよいよクライマックスへと向かいます。
    東京・三井記念美術館、愛知・岡崎市美術博物館を巡回した特別展は、静岡市美術館が最終会場です。
    家康の第二の故郷・静岡で、どうぞご覧ください。

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    ●NHK大河ドラマ特別展「どうする家康」
    会期:2023年11月3日(金祝)~12月13日(水)
    休館日:11月20日(月)のみ