• 2022年05月07日 花ひらくフランス絵画【6】 ポスト印象派とエコール・ド・パリ:個性の開花と古典への回帰

    エコール・ド・パリとは、戦間期にパリのモンマルトルやモンパルナスに集った画家たちを指します。自由を好んだ彼らに統一的な絵画様式は無く、唯一共通していたのは具象的な表現を用いたことでした。日本の藤田嗣治やイタリアのモディリアーニなど、外国人が多く含まれるのも特徴です。彼らの活動拠点となったのは、モンパルナスのアトリエ兼共同住宅「ラ・リューシュ(蜂の巣)」でした。

    その中のひとり、キスリングはポーランドの出身で、社交的で温厚な性格からモンパルナスのプリンスと呼ばれました。《サン=トロぺのシエスタ》に描かれているのは画家自身と、後に妻となるルネです。鮮烈な色彩にはフォーヴィスムからの、単純化された形態にはキュビスムからの影響が窺えます。本作は、第一次世界大戦中に描かれており、画家はその前年の1915年に戦闘中の負傷が原因で退役していました。地中海の温かな陽光の中で、戦傷を癒す自らの姿を捉えた作品と解釈することもできます。

     

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    モイズ・キスリング《サン=トロぺのシエスタ》1916年 ASSOCIATION DES AMIS DU PETIT PALAIS, GENEVE

     


    「スイス プチ・パレ美術館展 花ひらくフランス絵画」
    会期:2022年4月9日(土)~6月19日(日)
    休館日:毎週月曜日

     

  • 2022年05月04日 花ひらくフランス絵画【5】 フォーヴィスムからキュビスムへ:空間表現の革命

    1908年ごろから、ピカソとブラックは伝統的な遠近法とは一線を画する斬新な空間表現を取り入れました。それは対象を複数の視点で捉えた幾何学的な面に分解し、平面上で再構成するというものでした。彼らの作風はモチーフを褐色の切り子面に還元する分析的キュビスムを経て、新聞の切り抜きや文字を画中に取り込む総合的キュビスムへと展開していきます。

    ピカソとブラックは大規模な展覧会への出品を行わず、カーンワイラー画廊を主な作品発表の場としていましたが、1911年、グレーズ、メッツァンジェ、レジェらは、キュビスム様式の作品をアンデパンダン展で発表。これを機にこの芸術運動は大衆に広く知られるようになりました。

    メッツァンジェによる《首飾りを着けた若い女》では、女性とその背景が幾何学的な面に分割され、分析的キュビスムの特徴がよく表れています。しかし輪郭線や細部の描きこみによって具象性が留められており、この画家に固有の作画姿勢も見受けられます。

     

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    ジャン・メッツァンジェ《首飾りを着けた若い女》1911年 ASSOCIATION DES AMIS DU PETIT PALAIS, GENEVE


    「スイス プチ・パレ美術館展 花ひらくフランス絵画」
    会期:2022年4月9日(土)~6月19日(日)
    休館日:毎週月曜日

     

  • 2022年05月03日 花ひらくフランス絵画【4】 新印象派からフォーヴィスムまで:色彩の開放

    1890年代からシニャックとクロスは南仏に転居し、モザイク調の点描法を用いるようになります。マティス、カモワン、マンギャンはシニャック邸を訪れ、固有色を離れて自律的な色彩の調和を生成する手法を学びました。これを契機として彼らは色彩の表現性に関心を寄せ、純色の力強いタッチで激情的な表現を探求していきます。

    1905年、マティス、カモワン、マンギャンらはサロン・ドートンヌと呼ばれるパリの展覧会に、鮮烈な色調の絵画を出品。同展の批評文を書いたヴォークセルがその荒々しい色遣いを「フォーヴ(野獣)」にたとえたことで、フォーヴィスムという名称が誕生しました。

    さらにこの批評家は南仏に集ったシニャック、マンギャンら一行を渡り鳥の一群に喩えたことが知られています。フォーヴ発祥の地となった南仏を、マンギャンは生涯を通して愛しました。ヴィルフランシュ=シュル=メールも地中海を臨む港町で、風光明媚な景観が鮮烈な色彩で彩られています。

     

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    アンリ・マンギャン《ヴィルフランシュの道》1913年 ASSOCIATION DES AMIS DU PETIT PALAIS, GENEVE


    「スイス プチ・パレ美術館展 花ひらくフランス絵画」
    会期:2022年4月9日(土)~6月19日(日)
    休館日:毎週月曜日

     

  • 2022年05月01日 花ひらくフランス絵画【3】 ナビ派とポン=タヴァン派:平坦な色面と内的な表象

    新印象派の登場と同じころ、フランス・ブルターニュ地方のポン=タヴァン村では、ベルナールによって原色の平坦な色面を明瞭な輪郭線で囲むクロワゾニスム様式が生み出されました。ゴーギャンはこの反写実的な描法を、想像上の風景を描くのに用い、総合主義と呼ばれる新たな美術潮流を築き上げていきます。

    1888年、同地に滞在したセリュジエが、ゴーギャンのもとで描いた風景画をパリに持ち帰り、ドニ、ボナール、ランソンらにその教えを伝えます。彼らはヘブライ語で預言者を意味する「ナビ」をグループ名に冠し、ゴーギャンの実践に倣いました。

    平面性が際立つクロワゾニスム様式は、遠近法の使用を常とした西洋絵画の伝統を覆すものでした。事実、この絵画様式には浮世絵からの影響も指摘されています。中でもランソンは、日本美術の雑誌を精力的に収集していました。本展出品作の《海辺の風景》でも、空間の平面的処理や形態の単純化に、浮世絵からの影響が窺えます。

     

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    ポール=エリー・ランソン《海辺の風景》1895年 ASSOCIATION DES AMIS DU PETIT PALAIS, GENEVE

     


    「スイス プチ・パレ美術館展 花ひらくフランス絵画」
    会期:2022年4月9日(土)~6月19日(日)
    休館日:毎週月曜日 ※5月2日(月)は開館

     

  • 2022年04月30日 花ひらくフランス絵画【2】 新印象派:美術と科学の融合

    1886年に開催された最後の印象派展に、スーラ、シニャック、ピサロ父子は無数の点で覆われた絵画を出品。批評家のフェネオンはそこに印象派を超える新たな芸術の到来を見出し、彼らを新印象派と命名しました。その後、デュボワ=ピエ、クロス、リュスらも同様の技法を取り入れるようになります。

    スーラが考案した点描法は、印象派が直感的に用いた筆触分割を科学的に体系化したものでした。彼は画布やパレット上での混色を徹底的に避けるべく小さな点を用い、補色同士を隣接させて鮮やかな色調の生成を試みました。さらに輪郭線の中に規則正しく点を配する手法をとることで、モチーフの形態が不明瞭になってしまうという印象派絵画の欠点を克服したのです。

    点を共通の造形手段としながらも、新印象派の画家たちは各々の表現を探求しました。スーラが補色対比を重んじたのに対し、デュボワ=ピエは本作で同系色の点を並置し、繊細なグラデーションを生み出しています。

     

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    アルベール・デュボワ=ピエ《冬の風景》1888-89年 ASSOCIATION DES AMIS DU PETIT PALAIS, GENEVE

    / サインにもご注目! \


    「スイス プチ・パレ美術館展 花ひらくフランス絵画」
    会期:2022年4月9日(土)~6月19日(日)
    休館日:毎週月曜日 ※5月2日(月)は開館

     

  • 2022年04月27日 花ひらくフランス絵画【1】 印象派:鮮やかな画面を求めて

    1874年、モネ、ピサロ、ルノワールらは写真家ナダールのアトリエを会場としたグループ展に、筆触分割を用いた作品を出品します。純色の小さなタッチを並置するこの技法では、絵具の混ぜ合わせによって生じる色の濁りを回避することができました。出品作であったモネの《印象、日の出》から派生して、印象派という呼称が用いられるようになります。

    全8回にわたりグループ展を開催した印象派の画家たち。彼らを経済的に支えたのがカイユボットでした。織物業を営む裕福な家庭に生まれたカイユボットは、友人たちの作品を積極的に購入。自らも画業に勤しみ、国立美術学校で学んだ後、定期的に印象派展に出品し、都市風景や肖像画を得意としました。

    本展出品作の《子どものモーリス・ユゴーの肖像》では、絵画収集家ポール・ユゴーの息子、モーリスが描かれています。筆触分割が用いられていますが、随所に他の印象派画家が好まなかった黒色が使われている点に、カイユボット自身の趣向も垣間見えます。

     

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    ギュスターヴ・カイユボット《子どものモーリス・ユゴーの肖像》1885年  ASSOCIATION DES AMIS DUPETIT PALAIS, GENEVE


    「スイス プチ・パレ美術館展 花ひらくフランス絵画」
    会期:2022年4月9日(土)~6月19日(日)
    休館日:毎週月曜日 ※ただし5月2日(月)は開館

     

  • 2022年04月10日 「新しさ」を巡る挑戦の軌跡

    いまだかつてない独創的な芸術表現を開拓すること。それは古今東西、画家たちの創作意欲をかきたて、飽くなき探求へと向かわせてきた普遍的なテーマだと言えるかもしれません。19世紀後半から20世紀前半のフランスでは、そうした「新しさ」を追い求める美術流派が次々に現れ、拮抗と超越を繰り返しながら、芸術の定義を幾重にも塗り替えていきました。

    その口火を切ったのが印象派です。彼らは意図的に筆あとを残す筆触分割という技法で身近な風景を描き、滑らかな絵肌と高尚な主題を重んじる従来の芸術観を一蹴しました。あまりに自由な筆遣いゆえに形態の崩壊を招いてしまった印象派の技法。そこで新印象派の画家たちは筆触分割に科学理論を適用した点描法を編み出し、色彩と形態の両立を試みます。一方、ポン=タヴァン派の画家たちは目に見えるものを見えるままに描く印象派の芸術に疑問を覚え、平面性を強調した装飾的な様式で内面世界を表しました。その実践はほどなくしてナビ派へと引き継がれていきます。

    20世紀初頭には、色彩で自律的な絵画空間を構築した新印象派の衣鉢を継ぎ、鮮烈な色調で主観的な感情を表現するフォーヴィスムが誕生。対して形態の探求を行ったキュビスムによって、モチーフを幾何学図形に分解、再構成する斬新な空間表現が提唱されます。戦間期になるとエコール・ド・パリの画家たちがこれらの絵画様式を融合させ、各々に個性豊かな作風へと昇華していきました。

    ジュネーブのプチ・パレ美術館の所蔵品で構成される本展では、38作家65作品によって、この時代に開花したフランス前衛美術の系譜をひも解きます。「新しさ」を巡る画家たちの挑戦の軌跡にご注目ください。

     

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    「スイス プチ・パレ美術館展 花ひらくフランス絵画」
    会期:2022年4月9日(土)~6月19日(日)
    休館日:毎週月曜日 ※ただし5月2日(月)は開館

     

  • 2022年04月07日 【新商品】Shizubiオリジナルクリアファイルができました!

    静岡市美術館オリジナルグッズに、4月9日から新しい「Shizubiクリアファイル」が仲間入りします!


    デザインは当館ロゴマーク*をモチーフにした総柄と、大きなロゴ1つの2種類。

    *ロゴマークの紹介はこちら

     


    リズミカルな総柄は、ミュージアムショップ紙袋や包装紙としても人気のデザインです。

     


    大きなロゴはシンプルながら、実はロゴの線が透けていて中に入れるものによって色の変化を楽しむことができます。

    どちらも展覧会のチラシを収納するのにもぴったりなA4サイズです。

     


    販売価格:1枚250円、2枚セット400円(税込)《2022年4月9日(土)発売》
    2枚セットはオリジナルシールがついたパッケージに入れてお渡しします。

     

    この他にもミュージアムショップでは当館オリジナル色鉛筆やマスキングテープなどを販売しています。
    春からの新生活に、ちょっと個性的な文房具を揃えてみるのはいかがでしょうか。

    ショップ&カフェは展覧会チケットをお持ちでなくてもご利用いただけますので、
    街中でのお買い物やお仕事帰りにぜひお気軽にお立ち寄りください。

     

    ◆お知らせ◆
    ミュージアムショップ&カフェのInstagramアカウントができました!

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    おすすめの商品やカフェの情報を発信していきます。

     

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  • 2022年03月11日 「平等院鳳凰堂と浄土院」来場1万人を達成!

    3月11日、「平等院鳳凰堂と浄土院」展の来場者が1万人を達成しました。
    1万人目は、市内からお越しのお客様。当館館長より記念品を贈呈しました。

    美術鑑賞がお好きで、当館にも何度も足を運んでいただいているとのこと。
    これからもぜひお気軽に立ち寄っていただけたらうれしいです!


    「平等院鳳凰堂と浄土院 その美と信仰」は、3月27日(日)までの開催です。

    雲中供養菩薩像(国宝)に代表される鳳凰堂ゆかりの名品を中心に、調査の過程で新たに発見された貴重な作品や、塔頭の浄土院に伝わる知られざる寺宝の数々もかつてない規模で展観しています。
    平等院が守り伝えてきた信仰と美の遺産をこの機会にぜひご覧ください。

     

    ◎ご来館の際はマスクを着用いただき、美術館入口にて手指の消毒をお願いします。⇒ご来場の皆様へお願い

    ◎当館ホームページから日時指定制(web予約)もご利用いただけます。ご予約なしでご来館される場合は、受付でその旨お伝え頂き、整理券をお受け取りください。

     

    (m.o)

     

  • 2022年03月01日 「平等院鳳凰堂と浄土院」 作品紹介③《籬に梅図(養林庵書院襖絵)》

    宇治市指定文化財《籬に梅図(養林庵書院襖絵)》江戸時代(17世紀) 浄土院蔵


    竹垣の背後から覗く幹がうねるように躍動して曲線を描き、長く伸ばした枝先に清楚な白い花を咲かせる梅の老木。幹の中腹には春の到来を待ちわびるかのように、番(つがい)の鳩が羽を休めています。

    この襖絵は、一説に伏見城の遺構を移築したと伝わる浄土院養林庵書院(重文)二の間を飾る障壁画の一部です。全面に金箔を貼り込めた華やかな画面に展開された幾何学的な形態、そして大胆な構図。それは豪壮華麗な桃山文化の残照とも言うべき特徴であり、近世初頭の京で筆を揮った絵師・狩野山雪の影響が認められます。

    室町時代以降、度重なる戦乱で荒廃した平等院を復興するべく、浄土宗など各宗が競って境内に塔頭を建立し、平安の美を守り伝えてきました。すなわちこの襖絵を飾る養林庵も、そうした背景から造営された塔頭の一棟だったのでしょう。平等院の知られざる歴史と美に気付かせてくれる、注目すべき一点です。

     

    (t.t)

     

    「平等院鳳凰堂と浄土院 その美と信仰」
    会期:2022年2月5日(土)ー3月27日(日)
    休館日:毎週月曜日(ただし3月21日(月・祝)は開館)、3月22日(火)
    ※会期中、一部展示替えがあります。前期2月27日(日)まで、後期3月1日(火)から