過去の展覧会
第1章 コローと19世紀風景画の先駆者たち
近代風景画の起源は、19世紀初頭の新古典主義にまでさかのぼることができます。美術アカデミーの遠近法教授を務め、新古典主義の画家であったヴァランシエンヌは、画学生に向けて刊行した1800年の指南書* の中で、風景画制作における自然観察の重要性を説きました。その教えに従い、弟子のミシャロンやベルタンはアトリエで大画面作品に着手する前に野外スケッチを実践。さらに現実の光景から理想的な情景を創り出す彼らの手法は、コローへと引き継がれ、実景に基づく叙情的風景を表した「思い出」シリーズに結実します。一方、クールベは手つかずの自然を荒々しいタッチで描き、写実主義を極限まで推し進めました。
ジャン=ヴィクトール・ベルタン
1820年 Inv. D. 901.1.1
アシル=エトナ・ミシャロン
1814-16年 Inv. 2000.3.1
ギュスターヴ・クールベ
1875年頃 Inv. 907.19.73
カミーユ・コローは新古典主義の流れをくみつつ、印象派へと続く近代風景画の基礎を築いた画家です。初期にはミシャロンとベルタンに師事し、3度にわたりイタリアに滞在、ローマやその近郊で描きためたスケッチをもとに官展に出品するための大画面作品を手掛けました。フランス国内でも各地の田園風景を描き、とくに別荘のあったヴィル=ダヴレーはコローの重要な霊感源になりました。その交友関係は広く、フォンテーヌブローの森でバルビゾン派と親交を結び、若き日のピサロを指導したことが知られています。本展ではイタリア時代の初期作品2点を含む、16点をご覧いただけます。画家自身の記憶から紡がれた詩情豊かな風景画にぜひご注目ください。
《ヴィラ・メディチの噴水盤》
1825-28年頃、1845年以降に加筆
Inv. 928.13.4
《イタリアのダンス》
1865-70年 Inv. 887.3.1
《湖畔の木々の下のふたりの姉妹》
1865-70年 Inv. 887.3.82
第2章 バルビゾン派
19世紀前半、パリ南東のフォンテーヌブローの森に隣接するバルビゾン村は、風景画制作の一大拠点と化しました。テオドール・ルソー、ドービニー、デュプレ、トロワイヨン、シャルル・ジャックをはじめとして、この地で精力的に活動した画家たちは、今日バルビゾン派と呼ばれています。聖書・神話主題が重視された時代にあって、バルビゾン派の画家たちは田園での労働や動物との共生、何気ない日々の光景を捉えました。彼らは実地での風景観察を重んじ、例えばドービニーは船の中にアトリエをしつらえ、川の上で制作に励んだといいます。
シャルル=フランソワ・ドービニー
1865年 Inv. 907.19.79
アンリ=ジョゼフ・アルピニー
1886年 Inv. 907.19.129
シャルル・ジャック
1873年 Inv. 887.3.65
第3章 画家=版画家の誕生
古くは複製技術とみなされた版画ですが、19世紀には芸術表現のためにこれを用いる「画家=版画家」が頭角を現すようになります。なかでもバルビゾン派世代の画家たちは、銅板を化学薬品で腐食して製版するエッチングと、写真技術から派生したクリシェ=ヴェールを得意とし、芸術性の高い風景版画を数多く制作しました。またこの時期には、風景のみならず風景画家も版画の主題として注目され、本展出品作の『田園の風景画家』(1866年初版、76年再版)では、挿絵版画と文章によって戸外制作に勤しむ画家たちの様子が表されています。
ジャン=バティスト・カミーユ・コロー
クリシェ・ヴェール(ガラス版印刷)/紙 個人蔵
アドルフ・ポルティエ
エッチング/紙 個人蔵
ジャン=フェルディナン・シェニョー
エッチング/紙 個人蔵
第4章 ウジェーヌ・ブーダン
ブーダンは戸外制作の発展に大きく貢献した画家のひとりです。ノルマンディー地方のオンフルールで水夫の子として生まれ、文房具店を経営する傍ら趣味でデッサンを始めました。その後本格的に絵画を学び、ノルマンディー地方の沿岸風景を繰り返し描くようになります。光と大気の描写を得意としたブーダンは、コローから「空の王者」と賞賛されました。またル・アーヴルでモネに戸外制作を教え、自身も1874年の第一回印象派展に出品するなど、印象派の誕生にも寄与しました。
ウジェーヌ・ブーダン
1890年 Inv. 907.19.34
1880-95年 Inv. 907.19.33
Inv. 949.1.68
第5章 印象主義の展開
1874年、モネ、ルノワール、ピサロ、シスレーをはじめとする新進気鋭の画家たちは、保守的な官展に対抗すべくグループ展を開催。後に「印象派展」と呼ばれることになるこの展覧会は、メンバーの入れ替わりを繰り返しながら、1886年まで全8回にわたり開催されました。印象派の画家たちが目指したのは、純色の小さなタッチを並べる筆触分割の手法により、色とりどりに移ろいゆく自然を活写すること。即興性が際立つ彼らの作品は当初スケッチのようだと批判されましたが、画商たちの協力もあって次第に人気を博すようになります。時代が下るにつれて作風や制作方法は多様化し、画家たちは各々に個性を開花させていきました。
ピエール=オーギュスト・ルノワール
1890年頃 Inv. 949.1.61
カミーユ・ピサロ
1902年 Inv. 907.19.208
クロード・モネ
1886年 Inv. 907.19.191