過去の展覧会

高畑勲展

第1章:出発点 アニメーション映画への情熱

高畑勲は1959年東映動画(現・東映アニメーション)へ入社し、20代からアニメーションの演出家(監督)を目指します。本章では日本のアニメーション史において画期的であった若き高畑の演出術を、遺品の中から見つかった膨大な未公開資料とともに、その制作プロセスに焦点を当てながらご紹介します。また、多種多様な資料の中には自筆の譜面も多く含まれます。高畑が初期作品から映画音楽に深く携わっていたことにもご注目ください。

若き高畑の出発点!
「ぼくらのかぐや姫」
(1960年前後、企画、未発表)
遺作『かぐや姫の物語』(2013)を制作する半世紀以上前に記していたメモの一部
新人離れした技術とセンスを発揮
『狼少年ケン』
(1963-1965年)© 東映アニメーション
セル画+ 背景画
「誇りたかきゴリラ」の絵コンテ
(設計/高畑、絵/彦根範夫)
集団制作の導入、複雑な作品世界の構築…
すべての常識を覆した革新的長編
『太陽の王子 ホルスの大冒険』
(1968年)© 東映
森康二による色紙
宮﨑駿による「チキサニの上に太陽」の企画についての意見と提案
高畑による登場人物の複雑な人間関係と心理状況を示した図
高畑による各シーンごとの作画担当表
高畑による「婚礼の唄」の譜面とシーン構成を考えたもの
東映動画在籍時『ホルスの大冒険』制作の頃の高畑
(撮影:大塚康生)

第2章:日常生活のよろこび アニメーションの新たな表現領域を開拓

東映動画を去った高畑は 、テレビの名作シリーズで新境地を切り拓きます。 毎週1話を完成させなければならない時間的な制約があるなか、一切の妥協を許さずさまざまな表現上の工夫を凝らし、1年間52話で完結する質の高い作品の数々を生み出しました。
本章では宮﨑駿、小田部羊一、近藤喜文、井岡雅宏、椋尾篁らとのチームワークを、 絵コンテやレイアウト、背景画などによって検証し、高畑演出の秘密に迫ります。

リズミカルな繰り返しと変化で想像力を刺激する
『パンダコパンダ』
(1972年) ©TMS
高畑による歌詞の一案
宮﨑によるレイアウト
『雨ふりサーカスの巻』で削除されたシーンの絵コンテ
(絵/宮﨑、文字/高畑、宮﨑)
衣食住や自然との関わりなど日常生活を丹念に描写した
『アルプスの少女ハイジ』
(1974年) ©ZUIYO 「アルプスの少女ハイジ」公式ホームページ http://www.heidi.ne.jp
セル画+ 背景画
小田部羊一によるデザインスケッチ
シリーズを通して成長していく少女の姿を描いた
『赤毛のアン』
(1979年) ©NIPPON ANIMATION CO.,LTD. “Anne of Green Gables” ™AGGLA
近藤喜文によるキャラクター・スケッチ
高畑の『赤毛のアン』の準備ノートより。左頁はアンのクラスメートの名前と性格、4右頁はシリーズ後半のエピソードの年間カレンダー

第3章:日本文化への眼差し 過去と現在の対話

高畑の関心は次第に日本を舞台にした作品へと向かい、その風土や庶民の生活のリアリティーをいきいきと描き出すことに注力します。1985年にスタジオジブリ設立に参画すると、『風の谷のナウシカ』(1984)や『天空の城ラピュタ』(1986)のプロデューサーを務めながら『火垂るの墓』(1988)を発表。日本人の戦中・戦後の経験を現代と地続きのものとして語り直す手法や、現地調査に基づく徹底したリアリズムは、海外でも高い評価を得ます。

原作者・野坂昭如に「アニメ恐るべし」と言わしめた
『火垂るの墓』
(1988年) © 野坂昭如/新潮社 , 1988
展示風景
「思い出編」(1966年)と「山形編」(1982年)…過去と現在を異なるスタイルで描いた
『おもひでぽろぽろ』
(1991年) © 岡本螢・刀根夕子・Studio Ghibli・NH
セル画+ 背景画
セル画+ セルブック+ 背景画
タヌキの生態と「化け学」を描く
『平成狸合戦ぽんぽこ』
(1994年) ©1994 畑事務所・Studio Ghibli・NH
ポスターのためのイラスト(セル画+背景画)
イメージボード

第4章:スケッチの躍動 アニメーションの新たな表現領域を開拓

高畑は90年代になると絵巻物研究に没頭し、その伝統的な視覚表現の中に日本のアニメーションのルーツを見出します。絵巻物のように人物と背景が一体化した表現を模索した高畑は、手描きの線の質感を生かした描法と、余白を残した淡彩画により、従来のセル様式とは一線を画した新たな表現に到達しました。本章ではデジタル化が急速に進む中、あえてスケッチ(活写)にこだわった膨大な作品と資料により、遺作となった『かぐや姫の物語』誕生の舞台裏をご紹介します。

隠れた名作!高畑監督作品で唯一ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久収蔵品となった
『ホーホケキョ となりの山田くん』
(1999年) ©1999 いしいひさいち・畑事務所・Studio Ghibli・NHD
着彩ボード
手描きの線が動く原初的な感動と想像力を刺激する余白の美しさ
『かぐや姫の物語』
(2013年) ©2013 畑事務所・Studio Ghibli・NDHDMTK
男鹿和雄によるボード
橋本晋治による原画
男鹿和雄による作画に着彩+ボード
橋本晋治による原画


高畑勲 (1935-2018)

撮影:篠山紀信
1935年 三重県生まれ、岡山県で育つ
1959年 東京大学文学部仏文科を卒業。同年東映動画(現・東映アニメーション)に入社
1968年 劇場用長編初監督となる『太陽の王子 ホルスの大冒険』完成
1974年 アルプスの少女ハイジ』(テレビ)全話を監督
1976年 母をたずねて三千里』、1979年『赤毛のアン』(共にテレビ)全話を監督
1981年 じゃりン子チエ』、1982年『セロ弾きのゴーシュ』(共に脚本・監督)
1984年 『風の谷のナウシカ』のプロデューサーを務める
1985年 スタジオジブリを設立
1986年 『天空の城ラピュタ』のプロデューサーを務める
1988年 火垂るの墓』(脚本・監督)
1991年 おもひでぽろぽろ』(脚本・監督)
1994年 平成狸合戦ぽんぽこ』(原作・脚本・監督)
1998年 紫綬褒章受章
1999年 ホーホケキョ となりの山田くん』(脚本・監督)
2013年 かぐや姫の物語』(原案・脚本・監督)
2015年 『かぐや姫の物語』が第87回アカデミー賞の長編アニメーション賞にノミネート
フランス芸術文化勲章オフィシエ受章
2018年 4月5日、82歳で亡くなる

*太字タイトルは出品作品です

[主な著作]
『映画を作りながら考えたこと』(1984)、『十二世紀のアニメーション』(1999)、『アニメーション、折にふれて』(2013)など多数。また、小学6年の国語の教科書(光村図書出版)に掲載されている『「鳥獣戯画」を読む』の作者としても知られている(2008-)。