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Ⅰ 絵画の「ジャンル」と「ランク付け」
絵画には肖像画、静物画、風景画といった様々な「ジャンル」がありますが、第Ⅰ部では「ジャンル」が重要な意味合いをもった16世紀から19世紀までの絵画作品に光を当てます。
西洋では伝統的に「ジャンル」に序列が設けられていました。最も高尚な「ジャンル」とされたのは聖書や神話、史実に取材した歴史画で、その下に身分の高い人々を表した肖像画、庶民の暮らしを主題とする風俗画、田舎や都市の景観を描いた風景画がつづき、静止したモチーフを描く静物画が最下位に位置づけられたのです。こうした考え方の根底には、芸術を精神的な活動として職人的な手仕事と区別し、教養や構想力が求められる絵画主題を尊ぶ、イタリア・ルネサンス以降の芸術観がありました。さらに17世紀のフランス王立絵画彫刻アカデミー(美術教育機関)において、「ジャンル」の序列はよりいっそう重要性を増していくようになります。
歴史画
優美なロココ様式で彩られた
神話画
優美なロココ様式で彩られた
神話画
ノエル゠ニコラ・コワペル《ヴィーナスの誕生》 1732年頃 油彩・カンヴァス
英雄ナポレオンにまつわる
歴史的場面
歴史的場面
ジャック゠ルイ・ダヴィッドの工房《サン゠ベルナール峠を越えるボナパルト》 1805年 油彩・カンヴァス
風俗画
市井の人々の暮らし
市井の人々の暮らし
ピエール・ベルゲーニュ《田園の奏楽》 17世紀後半‒18世紀初頭 油彩/カンヴァス
Ⅱ 激動の近現代―「決まり事」の無い世界
第Ⅱ部では19世紀から20世紀に光をあて、この時期の美術界をけん引したフランスの動向を主軸に据えつつ、主題(描かれた内容)と造形(描き方の特徴)の両面から近代絵画の革新性をひも解きます。
18世紀後半から19世紀初頭にかけて、フランスでは古代ギリシャ・ローマ美術やルネサンスを範に普遍的な理想美を追求する新古典主義が主流を成していましたが、その反動として誕生したロマン主義は、画家の感受性や個性を重んじ、独創的な芸術表現の開拓を促しました。以降、レアリスム(写実主義)、印象主義、象徴主義、フォーヴィスム、キュビスム、エコール・ド・パリ、シュルレアリスムといった多様な画派が、次々と前衛的な絵画表現を生み出し、「ジャンル」にまつわる従来の価値観や、美術の「決まり事」を塗り替えていったのです。
肖像画で人気を博した
印象派のルノワール
印象派のルノワール
ピエール゠オーギュスト・ルノワール《赤い服の女》 1892年頃 油彩・カンヴァス
イメージの魔術師、マグリット
ルネ・マグリット《再開》 1965年 油彩/カンヴァス
無垢な「眼」になることを
望んだモネ
望んだモネ
クロード・モネ《睡蓮》 1908年 油彩・カンヴァス
いずれも東京富士美術館蔵 Ⓒ東京富士美術館イメージアーカイブ/ DNPartcom