これからの展覧会

日本中の子どもたちを笑顔にした絵本作家

かがくいひろしの世界展

本展の見どころ

1. かがくいひろしの全著作16冊すべての絵本原画を展示!

本展では、かがくいひろしの全著作16冊の絵本原画約200点と、81冊におよぶアイデアノートなど関連資料約450点を展示。また、絵本創作の原点ともなった教員時代に手がけた教材や手づくり絵本、人形劇活動の記録などでその魅力を深掘りします。

2. 「だるまさん」シリーズの続編ほか、未完作品を公開!

「だるまさん」「まくらのせんにん」シリーズの続編をはじめ、数々の構想をラフ・習作として遺したかがくい。会場でしか目にすることができない未完作品を多数公開します。

3. 会期中いつでも展示室内でのおはなしOK!

誰もが楽しめる絵本を生み出したかがくいひろしの世界を、多くの人に楽しんでいただけるよう、バリアフリーツールとして手話動画・テキスト・音声による解説のほか、点字の解説パンフレットも用意しています。

《『だるまさんが』表紙原画》 2007年
©Hiroshi Kagakui/Bronze Publishing Inc.

※各章のタイトルをタップすると詳細が表示されます

2000年代に刊行されたファーストブック(赤ちゃん絵本)の中で、最速でミリオンセラーに達した「だるまさん」シリーズ。刊行直後から「0歳の赤ちゃんが反応する」「泣く子も笑う」と、読者の間や保育の現場で大きな反響を呼び、注目を集めました。かがくいひろしは特別支援学校の教員として障がいのある子どもたちと接しながら、相手の反応を引き出すことに常に力を注いできました。
28年間の現場経験で培ったヒントが盛り込まれた「だるまさん」シリーズは、子どもたちから笑い声を引き出し、読み手も思わず笑顔になる、そんな幸せの連鎖を生み出す絵本として刊行から15年以上たった今も圧倒的な支持を受け続けています。

《『だるまさんが』初期ダミー本の原画》 2007年
©Hiroshi Kagakui
《『だるまさんの』原画》 2008年
©Hiroshi Kagakui/Bronze Publishing Inc.

未公開ラフ

《未完「だるまさんが ころころ」ラフ》 2007年
©Hiroshi Kagakui
《未完「だるまさんが ころころ」ラフ》 2007年
©Hiroshi Kagakui
《未完「だるまさんが ころころ」ラフ》 2007年
©Hiroshi Kagakui
《未完「だるまさんが ころころ」ラフ》 2007年
©Hiroshi Kagakui
「だるまさん」シリーズは『だるまさんが』『だるまさんの』『だるまさんと』の3作でひと区切りとなりましたが、かがくいは第2期のアイデアを数多く温めていました。「だるまさんが ころころ」はだるまさんが丸や四角に姿を変え、さらには分割までしてしまう斬新な内容です。赤ちゃんの認知発達に興味を持っていたかがくいは、絵本を通じてその反応の可能性を探ろうとしていました。

かがくいひろしは、1955年東京都に生まれました。たくさんの愛情を注がれて育ったかがくいは、自分で作ったもので人を喜ばせることが大好きな子どもでした。かがくいには知的障がいのある姉がいました。その姉は、かがくいが4歳のときに事故で亡くなります。のちに美術の道を志し、障がい児教育に携わるようになるかがくいにとって、「ものづくりの原風景」と「姉の早逝」は重要な意味を持つ出来事となっています。

大学の彫刻研究室にて。卒展に向けて、制作の合間のひととき
《卒業制作 石彫「子どもの首」像(卒業アルバムより)》
《自画像》 1978年

1981年、かがくいは千葉県松戸つくし養護学校に着任します。その2年前の養護学校義務化にともない、全国に次々と養護学校が新設される中、子どもたちのために熱意ある教員たちが手探りで現場をつくりあげました。その一員として、かがくいは個々に合わせた授業プランを考え、その子にあった教材を手作りしました。また、教員仲間で人形劇団「つくし劇場」を立ち上げ、言葉がわからない子でも楽しめる「音・動き・リズム・見立て」を中心としたユーモラスな人形劇を上演。障がいのある子どもたちと接し、思考と実践を重ねる日々を過ごす過程で、その後の絵本制作へとつながる大切なヒントが蓄積されていきました。

《遠足バス 生徒の松本拓万との合作》
2007年 松本佳子、松本拓万蔵
《お誕生日ケーキ》 2008-2009年頃
千葉県立松戸特別支援学校蔵
《かがくいが手づくりした人形》
いずれも撮影/黒澤義教

2005年に50歳でデビューし、瞬く間に人気絵本作家となったかがくいは、教員の仕事と母親の介護を抱えて多忙を極める中でも、常に新しい絵本の構想をアイデアノートに綴りました。ラフのやりとりを経て構成が決まると、短期間のうちに原画を仕上げたと言います。そうして生まれた16冊の絵本は1冊も絶版になることなく現在も版を重ね、子どもたちに愛され続けています。

《『おもちのきもち』原画》 2004-2005年
©Hiroshi Kagakui/講談社
《『おもちのきもち』原画》 2004-2005年
©Hiroshi Kagakui/講談社
《『なつのおとずれ』原画》 2008年
©Hiroshi Kagakui/PHP研究所
《『なつのおとずれ』初期習作》 2004年
©Hiroshi Kagakui
《『ふしぎなでまえ』原画》 2004年/2007年
©Hiroshi Kagakui/講談社
《『おむすびさんちのたうえのひ』原画》 2006年
©Hiroshi Kagakui/PHP研究所
《『がまんのケーキ』原画》 2009年
©Hiroshi Kagakui/教育画劇
《『おしくら・まんじゅう』原画》 2009年
©Hiroshi Kagakui/Bronze Publishing Inc

かがくい絵本の登場人物は、ごくありふれた生活用具や食べ物ばかり。「ひたむきで地味なものに光を当てたい」と言っていたかがくいは、やかん、ふとん、ひょうたんなど、これまで絵本に登場しなかったようなモチーフを主人公に選びました。家族が集う居間の片隅が創作の場所だったかがくいにとって、絵本制作は日常生活の一部であり、家族との会話を育む温もりの通った営みでもありました。

《『まくらのせんにん さんぽみちの巻』原画》 2008年
©Hiroshi Kagakui/Koseishuppansha
《『おふとん かけたら』原画》 2009年
©Hiroshi Kagakui/Bronze Publishing Inc.
《『もくもくやかん』原画》 2006年
©Hiroshi Kagakui/講談社
《『みみかきめいじん』原画》 2009年
©Hiroshi Kagakui/講談社
《娘のデッサン》 ©Hiroshi Kagakui

教員仲間と活動していた「つくし劇場」を解散し、50歳で絵本作家デビューするまでのおよそ13年間、かがくいは自身の表現を模索して様々な制作活動を行い、個展も意欲的に開催します。独自の表現の追求と、自分の作るもので人を楽しませたいという気持ちで揺れ動くかがくいは、紙を駆使した集大成とも言うべき立体作品で2003年「紙わざ大賞」準大賞を受賞したことにより、それまでの表現スタイルに区切りをつけ、絵本制作へと向かいます。

紙わざ大賞準大賞受賞作

《浄化装置》 2003年
©Hiroshi Kagakui 特種東海製紙蔵

アイデアノート

《アイデアノートNo.35》 2005-2006年
©Hiroshi Kagakui
《アイデアノートNo.41》 2006年
©Hiroshi Kagakui

2009年3月に54歳で教員の仕事を早期退職し、絵本作家の仕事に専念しようとしていたかがくいは、そのわずか半年後にすい臓がんでこの世を去ります。編集者たちの手元には、かがくいが熱心に準備していた企画、本にしたいと願った絵本の原画や膨大な数のラフが残されました。それらは、かがくいの新たな絵本世界を予感させるものばかりでした。惜しくも刊行されることのなかった「絵本のたまご」たちを展覧会会場限定で公開します。

未公開習作

《未完「ふゆのおとずれ」習作》 ©Hiroshi Kagakui
《未完「おむすびさんちのみのりのひ」アイデアスケッチ》 2007年
©Hiroshi Kagakui

未公開ラフ

《未完「あかりをつけまーす」ラフ》 2008-2009年
©Hiroshi Kagakui