これからの展覧会

スウェーデンのうつわ

グスタフスベリのある暮らし

本展の見どころ

1. 「グスタフスベリ」の歴史と魅力をひもとく、日本ではじめての展覧会!
2. リサ・ラーソンをはじめ、グスタフスベリを支えた4人に焦点を当てる
3. スウェーデン国立美術館の所蔵作品から、大ボリュームの約300点を紹介!

※すべてスウェーデン国立美術館蔵 © Kooperativa Förbundet KF
スティグ・リンドベリ《「べショー」シリーズ、LLモデル》製作1960-1974年
Photo:Viktor Fordell / Nationalmuseum

展覧会構成


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ストックホルムから東へ約20㎞離れたヴァルムドゥウー市に位置する港町グスタフスベリ。この地で製陶が始まったのは1825年のことでした。経営体制はその後幾度も変化しますが、グスタフスベリにおける製陶の礎がここで築かれます。グスタフスベリでは、民間が主導となって発展した英国の作陶を参考に、職人を招聘し、陶土やデザイン、銅板転写や鋳型成形などの技術を導入し量産体制を整えていきます。

創業当初は国外からの影響を強く受けていたグスタフスベリですが、1870年代頃から独自の製品作りが進められていきます。英国のアーツ・アンド・クラフツ運動や、世界を席巻していたアール・ヌーヴォー様式が、工業化・都市化が進む北欧にももたらされると、自国の歴史や文化を見直すナショナル・ロマンティシズムの機運が高まります。民族的アイデンティティであるヴァイキング文化からモチーフを引用したり、スウェーデンに自生する身近な植物が描かれるなど、国際的なトレンドとスウェーデンらしさが融合する製品が作られていきます。さらに1889年のパリ万博をはじめ、国内外の展覧会へと出品を重ねることで、グスタフスベリは技術や独自性を磨き、ブランドとしての地位を確立していきました。
本パートでは創設時から20世紀初頭までのグスタフスベリ草創期を紹介し、スウェーデンにおける陶磁器の近代化の幕開けをたどります。

《皿(アネモネ装飾 東洋庭園の象)》製作1830年代
Photo:Viktor Fordell / Nationalmuseum
《「ノーディスク・スティール」燭台》
製作1870-1880年代 Photo:Nationalmuseum

世界的に流行したアール・ヌーヴォー様式とスウェーデンでクリスマスの花として親しまれているスズラン模様が融合!

《「リリエコンヴァリィ(スズラン)」皿、Wモデル》
デザイン1897年以前
Photo:Nationalmuseum
《グスタフスベリのプロモーションプレート(工場の風景)》
1911年
Photo:Viktor Fordell / Nationalmuseum

1917年、スウェーデン・スルイド協会の推薦により、画家・グラフィックデザイナーのヴィルヘルム・コーゲ(1889-1960)がグスタフスベリに入社します。コーゲはアーティスティック・ディレクターとして、一般家庭でも使いやすいデザインのテーブルウェアを生み出し、グスタフスベリを国民的ブランドへと導いていきます。第一次世界大戦後のスウェーデンでは、美術史家グレーゴル・パウルソンによる著作『より美しい日用品を(Vackrare vardagsvara)』(1919年)を指標に、アート・工芸・ 産業が一体化した質の高い工業製品の製造が図られます。手描き絵付の雰囲気を残した労働者のためのセット「リリエブロー」、オーブン調理後そのままテーブルに出せる耐熱磁器の「ピューロ」、各食器に定められていた用途を開放し、自由な使い方とスタッキングによる収納スペースの縮小が可能な「プラクティカ」シリーズなど、機能的であり、かつ工芸的な美しさが備わったコーゲのテーブルウェアは、一般家庭の生活の質を押し上げ、スウェーデンが福祉国家を形成していくなかでも象徴的な存在となりました。
本パートでは日本の民藝運動とも交流があったコーゲを通じて、大量生産と芸術性が結びついたグスタフスベリの転換期をたどります。

施釉するコーゲ/1950年代頃
ヴィルヘルム・コーゲ《「リリエブロー」プロモーションプ レート、KGモデル》1916-1917年
Photo:Linn Ahlgren/Nationalmuseum
ヴィルヘルム・コーゲ《「ピューロ」耐熱深皿》製作1930-1955年
Photo:Nationalmuseum

スタッキング可能なシンプルで機能的な食器セット

ヴィルヘルム・コーゲ《「ウィークエンド」シリーズ、「プラクティカ I」モデル》1930年代
Photo:Viktor Fordell / Nationalmuseum

手彩色された1点物のユニーク・ピース

ヴィルヘルム・コーゲ《皿》1942年
Photo:Viktor Fordell / Nationalmuseum
ヴィルヘルム・コーゲ《「ファシュタ」花器》おそらく1950年代
Photo:Nationalmuseum

大衆に質の高い製品を提供するというコーゲが築いた流れを受け継ぎ、色彩豊かで遊び心溢れる作品を生み出したのが、1937年に入社したスティグ・リンドベリ(1916-1982)でした。1942年コーゲがグスタフスベリ内に設置した「G- スタジオ」は、生産性や効率が求められる製造ラインとは異なり、アーティストたちが自由に制作できる工房でした。1949年にコーゲの跡を継いでアーティスティック・ディレクター(1949-1957、1972-1980)となったリンドベリは、このスタジオを発展させます。イラストレーターとしても活躍したリンドベリのファイアンス製の絵皿や花器は、時に熟練した絵付師のもとで量産され、一般家庭でも手に入れやすいアート作品として食卓や室内を彩りました。リサ・ラーソンやカーリン・ビョルクヴィストらも輩出したG-スタジオの自由な創造性は、グスタフスベリのものづくりの基盤となり、工場での大量生産と両輪となって機能しました。

リンドベリがアーティスティック・ディレクターとして活躍した所謂ミッドセンチュリーと呼ばれる時期は、北欧デザインの黄金期にあたります。1955年には建築から家具、日用品まで住空間全体がテーマとなったヘルシンボリ博覧会(通称 H55)がスウェーデンで開催され、北欧デザインが世界的な注目を集めました。そこで発表されたリンドベリのオーブンで使える磁器の「テルマ」や、必要な客数だけ購入できる「スピーサ・リッブ」は、テーブルマナーにとらわれない、気取らない食卓という新しい生活様式をもたらしました。さらにリンドベリは規格化したプレートやカップなどの素地を使って生産効率を高め、その上に多彩なデザインパターンを施しています。グスタフスベリの代名詞である葉っぱ模様の「べショー」は、東屋のような緑で囲まれた庭の休憩所を意味する言葉ですが、単なる葉モチーフを超え、家族や友人らとフィーカ(お茶時間)を愉しむスウェーデン人の暮らしそのものの表象といえます。
本パートでは、スウェーデンにおけるモダンデザインの象徴であり、グスタフスベリの黄金期を支えたリンドベリの、心躍る作品の数々を紹介します。

G-スタジオで制作するリンドベリ/1960年代
スティグ・リンドベリ《「トヴェットストレッケット(洗濯物干し)」皿》
1942年 Photo:Viktor Fordell / Nationalmuseum
スティグ・リンドベリ《「スピーサ・リッブ」》製作1955-1974年、《「スプリンガレ(馬)」》製作1950-1970年代、《「テルマ」》製作1955-1979年
Photo:Viktor Fordell / Nationalmuseum

グスタフスベリを代表する「べショー」シリーズもたっぷりと!
べショーは庭に設けられた日本の東屋のような空間。スウェーデンの人々はそこでFIKA(フィーカ)と呼ばれるお茶や団らんを愉しみます。

スティグ・リンドベリ《「べショー」蓋付ボウル、LLモデル 》 おそらく1960年以前
Photo:Viktor Fordell / Nationalmuseum

毎年12月13日に行われるスウェーデンの伝統行事ルシーア祭。蝋燭の冠をつけた聖人ルシーアに扮した子どもたちが行進します。黄金色のサフランパンも欠かせません。

スティグ・リンドベリ《クリスマスコレクションプレート(1982、ルシーアの行列と共に)》1982年
Photo:Viktor Fordell / Nationalmuseum

リンドベリの招きにより、1954年にG-スタジオの実習生としてグスタフスベリへ入ったリサ・ラーソン(1931-2024)は、機能的でシンプルさを重んじるモダニズム全盛の北欧デザインに、温かみとユーモアをもたらします。産業デザインには関心が薄く、作家志望のラーソンを尊重し、アトリエや専属のろくろ師がつくなど、制作に専念する環境が整えられました。リンドベリの勧めでシリーズ化された動物フィギュリンは、鋳型で成形した素地に手作業で彩色が施されています。フィギュリンはリサ以前のアーティストたちも作っていましたが、効率的に複数点製作が可能でありながら、ひとつひとつ異なる表情が魅力的な動物たちは大ヒットし、グスタフスベリに大きな利益をもたらしました。
こうした多くの人に受け入れられる作品を制作する一方で、彼女は粘土や釉薬の表情を活かした、素朴な表情の花器や、内面世界を表出させた作家性の強い彫像作品まで幅広い表現を展開しています。
本パートでは、グスタフスベリ在籍中に手がけたテーブルウェア、日本でも人気の高い猫やライオンのフィギュリンたち、レリーフや彫像作品などの1点ものの作品まで、多彩な魅力にあふれるラーソンを紹介します。

リサと猫たち/1950年代
Photo:Arkivet / Nationalmuseum
《「ストーラ・ソー(大きな動物園)」より ネコ》製作1966-1992年
Photo:Viktor Fordell / Nationalmuseum
リサ・ラーソン《「アフリカ」より ジャイアント・ライオン》デザイン1964年 製作1964-1988年
Photo:Viktor Fordell / Nationalmuseum
《「ラーソンス・ウンガル(ラーションの子どもたち)」より ペッレ》製作1964-1980年
Photo:Nationalmuseum
リサ・ラーソン《「サムヘルスデバッテン(社会討論)」》製作1969-1971年
Photo:Nationalmuseum
リサ・ラーソン《「マティルダ」》デザイン1960年代 製作1962-1972年
Photo:Bertil Wreting / Nationalmuseum
リサ・ラーソン《花器》1950-1960年代
Photo:Nationalmuseum

カーリン・ビョルクヴィスト(1927-2018)は1950年、コンストファック学校(現・スウェーデン国立美術工芸大学)の陶芸課程卒業後にグスタフスベリに入社しました。1956年の初個展で発表した器は、手びねりによる素朴な風合いと深みのある釉薬が評価され、後に量産ラインとして販売されます。手仕事の風合いを機械生産に落とし込み、かつ低価格を実現させたこのシリーズの名が「ヴァールダーグ(日常)」とあるように、ビョルクヴィストの作品は私たちの日常生活にひっそりと寄り添っています。1970年にデザインされた、食洗機対応でスタッキング可能なコーヒーカップは、レストラン、食堂、公共施設などあらゆる場所で現在も使用され、スウェーデンの日常風景の一部となっています。アーティスティック・ディレクター(1981-1986)も務めたビョルクヴィストですが、作家性よりも工業デザイナーというべき姿勢を貫いたため、無名性の強い作品がほとんどです。しかし1991年にノーベル賞の晩餐会のためにデザインした豪華なディナーセット「ノーベル・サービス」は、国民の誰もが知るビョルクヴィストの代表作です。ノーベル財団の90周年記念として企画され、現在も毎年12月10日にストックホルム市庁舎で行われる晩餐会に登場するこのシリーズは、一般販売もされていたため、ノーベル受賞者だけでなく 誰もが手にすることができました(現在は生産終了)。全ての人により良いものを届けるという、民主主義的であり平等思想に基づくグスタフスベリの企業精神がこうしたところにも表れています。
本パートでは、日本を訪れ、日本文化からも影響を受けたビョルクヴィストの作品を通じて、日常に息づくグスタフスベリの姿を探ります。

ろくろをまわすビョルクヴィスト/1950年代
Photo:Arkivet / Nationalmuseum
カーリン・ビョルクヴィスト《花器》1950年代、《ボウル》製作1950年代、《蓋付ポット》おそらく1950年代、《球体》デザイン1950-1960年代
Photo:Viktor Fordell / Nationalmuseum
カーリン・ビョルクヴィスト《コーヒーカップ&ソーサー、BLモデル》(一部出品) 製作1974年以降
Photo:Viktor Fordell / Nationalmuseum
カーリン・ビョルクヴィスト、製造ロールストランド・グスタフスベリ《「ノーベル・サービス」(参考写真)》製作1991年
Photo:Viktor Fordell / Nationalmuseum

展覧会の最後は、コーゲ、リンドベリ、ラーソン、ビョルクヴィストが手がけたプレート20枚が並ぶウォール・プレートによって締めくくられます。それぞれのアーティストが築いた個性豊かな表現や革新性、そしてすべての人に美しいものを届けることを目指したグスタフスベリの精神を振り返ることができるでしょう。



スウェーデン国立美術館/グスタフスベリ陶磁美術館

スウェーデン国立美術館は、1866年ストックホルムに開館しました。王室が築き上げたコレクションが基礎となり、1500年から1900年までの絵画、彫刻、素描、版画、および中世初期から現在までの工芸、デザイン、肖像画で構成されています。ヨーロッパの画家たちによる傑作に加え、カール・ラーションやアンデシュ・ソーンといったスウェーデンの芸術家による重要な作品が含まれています。2000年、グスタフスベリの所有者だったスウェーデン消費者協同組合連合(KF)は、膨大なグスタフスベリ・コレクションを国に寄贈しました。それ以降、同コレクションは国立美術館の管理下にあり、グスタフスベリ陶磁美術館で展示されています。コレクションには、陶芸作品から衛生陶器、プラスチック製品までの、1825年の創業から1993年までに製作された4万5000点、さらに石膏型や道具類、製陶所の資料や参考図書までが含まれています。

グスタフスベリ陶磁美術館、グスタフスベリ
Photo:Anna Danielsson / Nationalmuseum