2021年09月23日モーゼスおばあちゃんの絵が語るもの

グランマ・モーゼスの愛称で親しまれるアンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼスは、独学で絵を描いたアメリカの国民的画家です。

制作中のグランマ・モーゼス 1946年 写真:Otto Kallir © 2021, Grandma Moses Properties Co., NY


70代で本格的に絵筆を取り、1940年、80歳の時にニューヨークで初個展を開いて画家としての道を歩むモーゼスの存在を、テレビやラジオ、雑誌といったメディアが届けると、アメリカ国内で大きな反響が起こります。

決して順風ばかりでなかった田舎の一農婦としての人生の終盤に彼女がその才能を開花させたことは、何事も遅すぎることはない、という励ましを与えました。また、毎年着実に年を重ねていく姿は、大きな希望となります。何より、彼女が繰り返し描いたアメリカ北東部の農村の情景が、懐かしい原風景として人々の心を捉えました。

2月、まだ雪深いメープルの森に人々が集い、樹液を採取してシロップや砂糖を作るシュガリング・オフが行われます。
5月には灰汁と古油で1年分のせっけんが作られます。せっけんは羊の毛洗いにも使われ、刈り取った羊毛で様々な衣類が編み上げられます。
晩夏には村の一大行事、アップル・バター作りが行われます。早朝からりんご液とりんごが煮詰められ、真夜中にはどろりとしたアップル・バターが出来上がるのです。
10月には仮装して悪霊を追い払うハロウィーン、11月の感謝祭では七面鳥を食べ、12月、森で調達したモミの木を飾ってクリスマスを迎えます。

大人も子どももみな協力して自給自足の暮らしを送っていた時代、それはモーゼスの生活そのものであり、彼女が描いたすべてでした。生きる喜びとは、いつの時代も変わらず、日々の暮らしの中にある。そのことをモーゼスの絵は、温かく力強く、私たちに語りかけてきます。

 

(s.o)

 

◎開催中◎

「グランマ・モーゼス展 ―素敵な100年人生
会期:2021年11月7日(日)まで
休館日:毎週月曜日