-
2017年05月04日 Shizubi Project 6 彼方へ ② 林勇気
美術館エントランスホール・多目的室で開催中の「Shizubi Project 6 彼方へ 國府理・林勇気・宮永亮」をシリーズでご紹介する2回目、今回は、林勇気さんの展示をご紹介します。
林勇気さんの映像作品《もう一つの世界》は、ネット上から膨大な画像を切り抜いて浮遊させ、私たちをとりまくデジタル世界を鮮やかに可視化しています。芦屋市立美術博物館での展覧会(「窓の外、恋の旅。―風景と表現」2014年)や京都芸術センターでの個展(「電源を切ると何もみえなくなること」2016年)でも展示されたので、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。
いくつかのバージョンがありますが、今回は《もう一つの世界002》(2014年)を展示しています。窓際に置かれたいくつものパソコンやアイパッドなどの画面に、切り抜かれた無数の画像が、世界各地の写真をバックに流れていきます。
実はこの作品は、ネット上でも公開されており、世界中どこからでもアクセスできます。
今回の展示でも、ネットに接続された1台のパソコンで、グーグルマップ上のピンをクリックすると、その場所の写真をもとにした作品をユーチューブを介して見ることが出来ます。
高い天井から吊り下げられたモニター上の《IMAGE DATA》(2016年)では、スライドショーで流れる無数の写真が、次第に細片に分割され、回転し始めます。画像が分割され回転を始めるとき、厚みのないはずの画像に厚みがあるような、不思議な感覚を覚えました。
写真画像や映像などの「像」は、もともと厚みを持たず、今やデジタル情報でしかないわけですが、その画像がデジタル空間ではある厚みを持ちうるような・・・、画像やデータ、物質とは何かということを、優れて感覚的に考えさせられる作品です。
そのほか、アニメーション的な手法の《the outline of everything》(2010年)も、今回はレトロなブラウン管テレビの画面で上映されています。
(写真撮影)木奥恵三
会期末6月4日(日)からの2週間、展示室にも展示を拡張するときには、広い展示室の壁面一杯に作品を投影予定です。是非、こちらもご期待下さい。
(a.ik)
「Shizubi Project 6 彼方へ 國府理・林勇気・宮永亮」
①エントランスホール・多目的室 2017年3月28日(火)~6月18日(日)
②展示室 2017年6月4日(日)~18日(日)
[休館日]毎週月曜日(ただし5/1(月)は臨時開館)
[開館時間]10:00~19:00
[入場料]無料
※多目的室は、4/16(日)、5/6(土)、5/7(日)、5/20(土)ほか、イベント実施時にはご鑑賞頂けません。
-
2017年05月03日 アルバレス・ブラボ写真展 作品紹介(3)《眼の寓話》1931年
眼鏡屋の看板を写した本作は、よく見ると裏焼きで、文字が反転しています。
アルバレス・ブラボの作品のなかで最も謎めいた写真として知られる一枚です。自作について多くを語らなかったアルバレス・ブラボですが、
撮影前、向かいの床屋の鏡越しにこの眼鏡屋を見たというエピソードが残っています。
看板の眼がガラスに映り込むなど、幾重にも重なる視角の戯れには、
何が表(現実)で何が裏(虚像)なのかといった、「視ること」への問いが隠されているようです。さらに「モダンな眼」と読める店名や、心の眼で見よ、と語りかけるような「SPIRITO(Sprit/精神)」という店主の名前も、
この作品の謎を一層強調しています。アルバレス・ブラボは、メキシコの街を歩きながらそこで遭遇した風景や人々を撮り続けました。
日常に潜む謎や不可思議さが、何気ない景色のなかにふと顔を覗かせています。(a.i)
-
2017年05月01日 アルバレス・ブラボ写真展 作品紹介(2)《フリーダ・カーロ》1937年頃
《フリーダ・カーロ》1937年頃
マヌエル・アルバレス・ブラボ・アーカイヴ蔵
©Colette Urbajtel / Archivo Manuel Álvarez Bravo, S.C.
メキシコで今なお人気の高い女性画家フリーダ・カーロを真正面から捉えた本作は、
強さと弱さが同居する彼女の魅力を充分に伝えています。アルバレス・ブラボは、フリーダや彼女の伴侶で壁画運動を代表する画家ディエゴ・リベラら
多くの芸術家たちの姿を収めています。
ソ連の革命家トロツキーやシュルレアリスムの主導者アンドレ・ブルトンも集うなど、
当時のメキシコは最も国際的な文化交流の場となっていました。
芸術と政治が密接な、この活気に満ちた時代のなかにあっても、
アルバレス・ブラボは政治とは距離を置きつつ自身の芸術を淡々と追求しました。100歳まで生きたアルバレス・ブラボの活動歴は70年に及びます。
身近な出来事に反応しながらも、どこか一歩離れた所から世の中を見つめる姿は、
私たちに世界との向き合い方の一つの解を与えてくれるかのようです。(a.i)
-
2017年04月30日 Shizubi Project 6 彼方へ ① 國府理
3月28日から、美術館エントランスホール・多目的室で「Shizubi project 6 彼方へ 國府理・林勇気・宮永亮」(6/18まで)が始まっています。遅ればせながら、展示風景をシリーズでご紹介します。
「私が乗り物を作りたかったのは、それを手に入れれば、どこかへ行けると思ったから」
國府理さんの《プロペラ自転車》1994年と、《Sailing Bike》2005年は、そう語った作家の初期の代表作です。天井が高く、白を基調としたエントランスの壁と窓辺に、美しく、静かに佇んでいます。
独自の設計思想と、職人的な技術を持った作家の手から生まれた作品は、フレームの隅々まで研ぎ澄まされた感覚と仕上げへの拘りが行き渡り、今にも走り出しそうです。
(写真)撮影:木奥恵三
1970年生まれの國府理さんは、2014年、青森県での個展開催中に不慮の事故で亡くなりました。享年44。昨日4月29日はそのご命日でした。多くの人が驚き、悲しんだその突然の死から3年、作品は変わらず私たちの想像力に力を与えてくれます。
会場では、若き日の國府さんが仲間と帆を張った自動車《Natural Powered Vehicle》2004年で旅するドキュメンタリー映像も流れています。こちらはYouTubeでもご覧いただけますので、是非どうぞ。https://www.youtube.com/watch?v=Y6KmV6TGpcE
展示は6月18日(日)まで。6月4日(日)からは、エントランスホール・多目的室に加えて、林勇気さん、宮永亮さんの映像作品で展示室にも拡張します。
また、展示室では、「アルバレス・ブラボ写真展 メキシコ、静かなる光と時」(5月28日(日)まで)を開催中。100年を生きた20世紀を代表する写真家の日本では初めての大規模な回顧展、モノクロームの美しいプリントが多数並んでいます。是非、合わせてご覧ください。
(a.ik)
-
2017年04月29日 アルバレス・ブラボ写真展 作品紹介(1)《夢想》1931年
頬に手を添え、物憂げな表情を浮かべる少女は、何を考え、何処を見ているのでしょうか。
彼女が心に想い描く景色は伺い知れず、手前の柵は私たちと少女を隔てる境界線のようです。
右肩に降り注ぐ一点の光もまた、少女だけに与えられた特別な啓示かと思わせます。柵が織りなす線のリズムや、少女の足が丁度隙間に見える構図など、
アルバレス・ブラボの技量の高さは言うまでもありません。
しかし一番の魅力は、何気ない写真のなかに暗示されている、
一方には見えて、もう一方には見えない世界の存在ではないでしょうか。少女だけが見つめる景色。メキシコの喧騒の裏に潜むもう一つのメキシコの姿。
光と影で捉えたアルバレス・ブラボのモノクロ写真には、世界の二元性が静かに開示されています。(a.i)
-
2017年04月02日 メキシコの「光」と「影」
メキシコを代表する写真家マヌエル・アルバレス・ブラボ。
100歳まで生き、まさにひとつの時代を眺めてきた作家ですが、
その眼差しは常に自国メキシコの文化と生活に向けられていました。
アルバレス・ブラボが本格的に写真を撮り始めたのは1920年代末。
メキシコ革命の動乱がひと段落し、芸術の分野では
壁画運動の3巨匠オロスコ、リベラ、シケイロスが活躍をみせた頃でした。
彼らは古代メキシコの 栄光や革命の歴史、また新生メキシコの建国精神などを、
公共建築物の巨大な壁面に力強いイメージで描きました。
また1937年には革命家トロツキーが、
翌年にはシュルレアリスムの主導者アンドレ・ブルトンがメキシコを訪れ、
当時のメキシコは、最も国際的な文化交流の場となっていました。
しかしこの活気に満ちた時代のなかにあっても、
アルバレス・ブラボが撮るモノクロの写真世界には、静かで詩的な世界が広がっています。
この時期の代表作のひとつ《夢想》では、少女が頬に手を添え、物憂げな表情を浮かべています。
少女は何を考え、何処を見ているのでしょうか。
境界線のような柵の手前にいる私たちには、彼女の心の世界を見ることはできないのかもしれません。
また、街角の眼鏡屋の看板を写した《眼の寓話》は、よく見ると裏焼きで、文字が逆さまになっています。
これらの作品には「こちら」と「あちら」、「表」と「裏」といった2つの要素が同居しています。
メキシコの人々の思想の根幹には、先スペイン期から継承した「二元性」の概念があると言われています。
これは、世界に存在するあらゆるものは2種類の要素で成り立ち、
それらは対立するのでなく補完しあう関係である、という考えです。
毎年11月に行われる「死者の日」のお祭りは、
生と死も円環を成す存在であるというメキシコの死生観を最もよく表していると言えるでしょう。
アルバレス・ブラボの作品は、私たちが思い描く鮮やかな色に彩られたメキシコのイメージとは異なりますが、
そこには深くメキシコの精神が息づいています。
彼の作品に潜む、この複雑で多層的な意味を読み解いていくと、
写真もまた「光」と「影」の芸術であったということを思い起こすのです。
(a.i.)
展覧会チラシには《夢想》を、しおりサイズのミニチラシには《眼の寓話》を使用しています。
ぜひお手に取ってご覧ください。
会期:2019年4月8日(土)~5月28日(日)
観覧料:一般1000(800)円、大高生・70歳以上800(600)円、中学生以下無料
*( )内は前売りおよび当日に限り20名以上の団体料金
*障害者手帳等をお持ちの方及び介助者原則1名は無料
現在、お得な前売り券を販売中!4月7日(金)まで!
静岡市美術館、チケットぴあ[Pコード:768-091]、ローソンチケット[Lコード:42590]、セブンチケット[セブンコード:051-463]、谷島屋呉服町本店、谷島屋マークイズ静岡店、戸田書店静岡本店、戸田書店城北店、、MARUZEN&ジュンク堂書店新静岡店
-
2017年03月26日 「夢二と京都の日本画」の中の夢二
「夢二と京都の日本画」と題した本展は4章構成になっており、第1章と第4章に夢二の作品が展示されています。第1章では京都滞在までの夢二の歩みを概観し、第4章では大正7年に京都から東京へと戻った後の夢二の仕事を紹介しています。
大正元(1912)年、夢二は京都府立図書館で初めての個展を開催しました。それまで出版物を通じて絵や文章を発表していた夢二が、日本画、水彩画、油彩画などを初めて展示した記念すべき初個展です。この個展以降夢二は、画会や展覧会で1点ものの肉筆画を販売するようになり、画家としての出発を遂げたのです。
本展では、夢二が初個展を開いた頃に近い時期の制作と推定されている《河岸の落日》、《水のほとり》を京都国立近代美術館より拝借して展示しています。画家の息づかいを伝える柔らかい墨の線が魅力的な作品です。これらとあわせて展示している当館所蔵の《草に憩う女》や《木に寄る女》などは、その少し後の時期に位置づけられる作品です。夢二が掛軸に独特な縦長の画面に慣れてきていることや、女性の身につけている着物や帯に夢二独自のデザインが見られる点など、作風の変化を見て取ることが出来ます。
左から《河岸の落日》《水のほとり》《初春》《合鏡》《草に憩う女》《木に寄る女》(すべて竹久夢二)
さらに、4章には昭和期の夢二の作品を展示しています。
第1章の作品と比較すると、筆遣いの幅が広がり、かすれた線や肥瘦のめりはりのある線など、画技に磨きがかかっています。《南枝早春・立春大吉》(三鷹市蔵)の双幅では、日本髪に白粉化粧の女性と断髪に薄化粧の女性をそれぞれの軸に描き、背景の梅は紅梅と白梅、羽子板を構えるポーズも動と静の違いをつけるなど、双幅ならではの対比の面白さが際立ちます。また、一幅ずつそれぞれに松竹梅の意匠を盛り込むといった趣向も凝らされています。夢二と京都の画家たちとの対比とともに、初期と晩年の夢二の作風の対比もまた興味深いものがあります。華やかな女性遍歴など人間ドラマに注目が集まりがちな夢二ですが、表現に関しては晩年までたゆまぬ努力を続けていたことは、何よりその作品が物語っているのではないでしょうか。
夢二と京都の日本画の共演も本日まで。展覧会は閉幕を迎えます。多くの皆様にご観覧いただき、ありがとうございました。そして、ブログのアップが遅れましたこと、お詫び申し上げます。
(k.y.) -
2017年03月04日 3月5日(日)まで展示の作品
「夢二と京都の日本画」では、京都市美術館および当館のコレクションを核として、大衆画家である竹久夢二と京都画壇の画家たちの作品を一堂に集めています。これまで同時に扱われることのなかった両者を同時代の表現として捉え直す機会になればと考えています。
さて、本展では一部の作品を展示替えいたします。
以下の5点が3月5日で展示終了となります。平井楳仙《日盛り》
竹内栖鳳《絵になる最初》(下絵)
都路華香《萬年台の夕・東萊里の朝》
菊池芳文《春の夕・霜の朝》
宇田荻邨《太夫》
右から
竹内栖鳳《絵になる最初》(下絵)、上村松園《待月》、都路華香《萬年台の夕・東萊里の朝》、菊池芳文《春の夕・霜の朝》(いずれも京都市美術館蔵)竹内栖鳳の《絵になる最初》(下絵)は、このたび出品されない本画とともに、平成28年度に国の重要文化財に指定されました。栖鳳が天女を描くために呼び寄せたモデルが初めて裸体になる前の恥じらいの表情を捉えた作品です。本展覧会では、上村松園の《待月》のお隣に展示されており、師弟による美人画対決となっています。目の前の娘の表情に注目し、モダンな柄の着物とともに描いた栖鳳と、後ろ姿の古風な女性像で季節感あふれる場面を描いた松園が好対照をなしています。
都路華香、菊池芳文は栖鳳と同じく幸野楳嶺に学び、近代の京都画壇の隆盛に貢献した画家たちです。このたびの出品作はどちらも朝と夕べをテーマとした対の作品ですが、雄渾な筆致の芳文、のどかな雰囲気の華香と、それぞれの個性が発揮されています。
平井楳仙や宇田荻邨は栖鳳たちよりも若い世代にあたります。平面的な構成と写実描写の調和をはかった楳仙の意欲作《日盛り》や、濃密な表現に妖しいまでの美しさが表現された荻邨の《太夫》など、彼らの作品からは、それぞれの方向で新しい日本画の創造を目指していたことが伝わってきます。楳仙は夢二の京都滞在時代には一緒にテニスをしています。野長瀬晩花や秦テルヲなど共通の友人がいたことからのつながりでしょうか。官展で活躍した楳仙と、大衆画家だった夢二との意外な交流です。
左から
平井楳仙《日盛り》(京都国立近代美術館蔵)、秦テルヲ《煙突》《母子》(ともに京都市美術館蔵)3月7日からは竹内栖鳳《雨》、谷口香嶠《実方花下避雨図》、木島桜谷《寒月》、勝田哲《お夏》を展示いたします。どうぞお楽しみに。
(k.y.)
-
2016年11月03日 レイアウトとは
アニメーションは、人の手で描いた線を動かすことのできる、魔法のようなメディアです。
しかしその絵によって何かを物語り、ひとつの世界を表現するということは、並大抵のことではありません。
滑らかな動きを表現するためにはたくさんの絵が必要ですし、アニメーションの制作工程はとても複雑でこまかく分業化されています。
例えば『もののけ姫』のような長編作品の場合、スタッフ数は総勢2,000人、14万枚もの絵が描かれました。
しかし完成した作品を見ると、すべてを同じ人が描いたような統一感を感じませんか。
そのために最も重要な役割を果たしているものこそ、今回ご紹介するレイアウトです。
レイアウトは、映画全体の設計図である絵コンテの各画面を、23×35cm程度のレイアウト用紙に鉛筆で描いたものです。
これをテレビアニメの場合、毎週1話分(約20分)で300枚程度描きます。
レイアウトは複数人いる各場面の原画担当が描き、監督がそれを最後にチェック、修正します。
「宮さんはただ優秀なスタッフが欲しいんじゃないね。
自分が何人も欲しいんだよ。
毛を抜いてふっと息を吹きかけるやたちまち分身がバラバラッと飛び出す孫悟空みたいに」*
次から次へとレイアウトの手直しをする宮崎駿監督を横目で見ながら、ある日スタッフがそう言ったそうです。
レイアウトは下書きであるにもかかわらず、なぜ監督自らがここまでこだわるのか。
それは、レイアウトが各画面を決定づけ、以後分業される作業のすべては、このレイアウトどおりに進めていくからです。
だからこそ出品作品のレイアウトを見たら、きっとあなたの好きなジブリの名シーンの数々が見つかることでしょう。
完成したアニメーションからは知ることのできない、膨大な手作業の数々…
高畑・宮崎アニメの秘密を、レイアウトの中から見つけてみてください。
(m.y)
*高畑勲「レイアウトはアニメーション映画制作のキイ・ポイント」『スタジオジブリレイアウト展』図録
2008年 編集:スタジオジブリ、日本テレビ
「風の谷のナウシカ」©1984 Studio Ghibli・H
-
2016年10月14日 ランス美術館展、来場1万人達成
本日、「ランス美術館展 美しきフランス バロックからフジタへ」の来場が1万人を達成しました!
1万人目のお客様は、静岡県内からお越しの川崎さん、篠崎さんご姉妹。
美術鑑賞がお好きで、当館にもよく足を運んでくださっているとの事。
西洋美術史を彩る巨匠たちの名品が展示される「ランス美術館展」。
作品を観るのが楽しみ、とお話しいただきました。
お二人には、当館館長から記念品を贈呈しました!おめでとうございます。
「ランス美術館展」は、いよいよ10月30日(日)まで。
みなさまのご来場をお待ちしています。
(c.o)
HOMEBLOG